50話 どっちが死ぬべき?
50話 どっちが死ぬべき?
ヌルの方が、損傷が激しい。
ボロボロになっていくヌルを見ながら、
1002号が、カミノに、
「……これ……なんか……このままやったら、蝉原が、ヌルを殺してしまいそうやけど……それで、ええん?」
と、尋ねた。
カミノは、欠損治癒の魔法で下半身を再生させつつ、
数秒だけ考えてから、
「……蝉原がヌルを超えているなんて……想定していなかった……そんな状況になるわけがないと思っていた……だから……正直……わからない……最善手が見えない……」
『蝉原と共闘してヌルを倒す』――それを大前提にして、カミノは、今日を迎えた。
そして、もう一つ大事な前提として『蝉原とヌルなら、蝉原の方が、敵としてマシだ』とカミノは思っていた。
『ありえないとは思うが、万が一、蝉原がヌルを倒してしまっても、それはそれで問題ない。敵の厄介さがワンランクダウンするだけだから』
などと、ナメたことを考えていた。
(敵に自分を侮らせることが最大級に効果的である……と、ヌルを見て確信した蝉原は……『ヌル以上に、自分を侮らせる』という、イカれている策を選んだ……これは、あいつの挑戦……すべてにおいて、ヌル以上を求めるという、尖ったチャレンジ……)
実際のところ、蝉原が何を考えて作戦を練ったのか、
その辺は、蝉原しか知る由がない部分。
だが、ここまでの言動から、カミノは、
蝉原を、『ヌル以上に狡猾な蛇』だと判定した。
こうなってくると、
どっちにつくか、という大問題の前でさまようことになる。
(ヌルの『目的』が、本当に、蝉原の言っていた通りなら、蝉原を殺すべき……だが、蝉原の発言が真実である保証なんて、どこにもない……仮に、真実だとして、蝉原は、どうして、それを俺たちに言った? 蝉原にとっては不利になるだけじゃないか? ……わからない……現状が、さっぱりわからない)
合理的な解答を見失ったカミノはパニックになる。
盤上を支配していると思い込んでいたが、
しかし、実際のところは、何も見えていなかった。
――そんなカミノの視線の先で、
ヌルが、どんどん損傷していく。
このままだと、蝉原にヌルが殺されるのは時間の問題。
「ぐっ!」
カウンターを決められてのけぞるヌル。
ギリっと奥歯をかみしめて、
蝉原を睨みながら、
ヌルは、
「……蝉原。なんだか……俺とお前の差が、どんどん開いてきている気がするんだけど……気のせいか?」
と、問いかけると、
蝉原は、黒く微笑んで、
「俺の中には、『センエースと戦い続けたウムルの因子』もあるからね。『疲れ果てたしぼりカスのセンエースに奇襲した経験しかない君』とは、器の出来が違うんだよ」
「……」
「ウムルのメモリだけじゃない。蝉原勇吾は、これまで何度も、何度も、『覚醒したセンエースの相手』を務めてきた。何度も何度もボコボコにされてきた。蝉原勇吾の中には対センエースの記憶が痛いほどに刻み込まれている。絶望的な敗北と屈辱的な復活を繰り返し続けた、蝉原勇吾の『対センエースの器』は、異次元の超回復を経て、爆裂に増大している。センエースとの戦いで無限に敗北し続けてきたこの俺に、『瀕死の死にかけを闇討ちしたことがあるだけの君』が勝てる道理なんてない」




