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48話 蝉原勇吾は正直なだけ。


 48話 蝉原勇吾は正直なだけ。


「俺はもう、二度と、君に縛られない。この状況をつくるために、必死になって頭をつかい、どうにかこうにか実現できた……」


「すごいやつだよ、お前は。狡猾さという点においては、トウシより上。さすが、D型限定とはいえ、センエースの心を折ったことがある化け物。その天才性を普通に使えたら、俺なんかよりも遥かに優れた王になれるのに ばかなやつだ」


「俺は王を求めない。俺の望みはいつだって宇宙一のヤクザ。センエースを殺し、この世の概念全てに俺という悪意を叩き込む。全ての命が俺にひれ伏す。全ての魂魄が俺に恐怖する。それをなせるだけの潜在能力が俺にはある」


 ヌルは蝉原と殺し合いながら語る。


「すべての命がお前に恐怖して だからなんだ? それでお前は何をえる? 何も手に入らないと思うのは俺の勘違いか?」


「モノが欲しくて宇宙一のヤクザやってんじゃないよ。金や女には秒で飽きた。地位も権力も、慣れてしまえば、噛み終えたガムみたいなもの。そうじゃない。そうじゃないんだよ、閃くん。……そんなモノじゃ俺は満たされないんだ」


「じゃあ何が欲しいか教えてくれよ。俺にはお前がわからない。分かろうとしてみたこともあったが、お前は頑なに自分を隠すから、同じコミュニティに所属して、そこそこの時間を共に過ごしたのに、結局何もわからなかった。お前は何が欲しい? なぜ悪意でないとダメなんだ。なぜお前は賢王になれない? オリジナルのセンエースやトウシよりも、ある意味で優秀なお前は、命の頂点に立つことだってできるはずなのに、 その気になれば、お前は、俺と違い、すべての命に尊ばれ、全ての愛を独り占めにできるのに、なのになんで――」


「尊い愛が砕けていく様にこそ、最上級の芸術性を感じ、この上ない愉悦を覚えるから じゃないかな」


「……」


「別にこれは俺だけの特別じゃないはずだよ。大きな会社が破産したってニュースを聞くとこの上なく爽快な気持ちになるだろう? イケメンや美女の訃報や破局に対して胸が躍るだろう? 世界のどこかで戦争が起きていて、けど自分はセーフティにいれば、戦争で苦しんでいる連中に対して強い優越感を覚えるだろう? 俺はそういう感情に対して誠実なだけだよ。マトモを自称している連中は『お気の毒に』なんて言葉で誤魔化して、ひどい奴になると寄付金を出したりして、『私は、そういうことに心を痛めることができる良い人間です』というしょうもないアピールをしている。別にそれが悪いと言っているんじゃない。無駄な見栄をはるのは人間としてのたしなみの一つだ。……ただ、俺はそういうクソな誤魔化しで自分を偽ったりはしないってだけの話。俺は俺の感情に対して常に自由でありたい」


 その情動が理解できたから、ザンクは蝉原の提案に乗った。


 どっちも根っこは同じ。

 殊更に、自由を求める。


「うまいものを食っても、女を抱いても、山ほどの配下に傅かれても、俺の欲望は満たせない。倫理や道徳を重視する道では永遠に自由になれない。俺を真に満たしてくれるのは、壊れていく『他』を見つめている時。俺への恐怖が狂気を呼び、世界が永遠に混乱し、悪意が蔓延り、まともな奴らが無限に苦しむ。それを眺めている俺。最強というセーフティな特等席で、命が絶望する様をとことん味わい尽くす。それが俺の望み」


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