39話 逆襲の蝉原。
39話 逆襲の蝉原。
「援護しろ、1002号! 元主人公どもも、残っている力を全部使って協力しろ! 望み通り裏切ってやる! ヌルを殺してやる! だから全力で俺のサポートをしろ!」
命令を下していく蝉原。
蝉原の命令を黙って聞くのはシャクだったが、『蝉原がヌルを裏切る』という、この状況は、普通にありがたいので、全員で、蝉原の弟子たちを処理していく。
まずは、ヌルをどうにかすること。それが最優先。
――そんな状況を尻目に、
蝉原の弟子の一人『クロート』が、
奥歯をかみしめながら、
「ぐっっ……怒りに任せてバラバラに闘うな! 超苺を中心にした、フォーメーションAでいくぞ! 確実に蝉原を殺す!!」
と、叫ぶ。
弟子たちの中で序列はないので、
クロートの命令に従う義理はないのだが、
『クロートは間違ったことを言っていない』と理解できる頭はあるので、
こちらサイドでも、文句が出ることなく、
フォーメーションAの構えをとっていく面々。
フォーメーションAは、本来、ヌルを中心とした陣形。
尊き王であるヌルを、より輝かせるために磨き上げてきたサポート特化の編成。
ちなみに、酒神だけは、このフォーメーションに入っていない。
彼女は『自由な遊撃手』というポジション以外はこなせない。
『自由な酒神』と、『超苺を中心とした酒神以外』という形でフォーメーションを組み、どうにか、蝉原を迎撃しようと頑張る、蝉原の弟子たち。
弟子たちは、これまで、蝉原と、『短いとは言えないだけの時間を一緒に過ごしてきた』ため、蝉原の能力について、それなりに理解している気になっていた。
蝉原は、クソ野郎の極悪人だが、非常に優秀な男。
ヌルと比べたら、潜在能力でも運命力でも、全てにおいて劣っているが、しかし、可能性の質量だけで言えば、なかなか悪くないものをもっており、少なくとも、ヌルの配下の中では、最高峰のスペックを誇っている。
――ただ、酒神や超苺よりも、明確に下である。
というのが、弟子たちの総評。
間違いなく高スペックだが、最大級の脅威ではない。
そう思っていた。
ハッキリ言ってしまえば、侮っていた。
蝉原が『悪人で野心家であること』は知っているが、だからといって、この上なく尊い王であるヌルを裏切ることは絶対にありえないだろう、と、そう思っていた部分もあった。
『ヌルの高み』は別次元であり、また、ヌルは、蝉原を命がけで助けたこともある。
そんな高潔で尊い存在にたてつくようなマネをするはずがない。
という、極めて常識的な認識の中、
事実、ここまで、蝉原は、ずっと、
忠実な配下として、誰よりも熱心に、
ヌルの配下としての仕事を真摯にこなし続けてきた。
――蝉原は、ずっと、機をうかがっていた。
忠実な配下のフリをして、自分の全てを丁寧に抑え込んで、ヘイトや認識を上手に管理・コントロールしながら、『ヌルに一発ブチかませる千載一遇の機会』を、虎視眈々と狙い続けてきた。
そんな蝉原の鎖を解き放ったカミノは、
『弟子たちをボコボコにしていく蝉原』を見ながら、
(……よし……計画通り……)
と、黒い笑顔を浮かべていた。
カミノの計画の要は、
1002号と蝉原の二人。




