38話 蝉原勇吾の悪神遊戯。
38話 蝉原勇吾の悪神遊戯。
「トウシの方が良かった、という想いがないわけではない。けれど、ザンクの方がいいという想いもなくはないんだ。俺はあまり本音を言わないが、これだけは本音だと断言しておく。……無駄に倫理観が強いトウシよりも、善悪に頓着しないザンクの方が……俺のCPUとしてはふさわしい気がする。実際のところどうかは分からないけれど……少なくとも、俺の感情論上では、そういう結論が出ている。『俺がそう思うんなら、そうなんだろう。俺の中では』……といった具合かな」
などと言っている蝉原。
その視線の先では、
1002号と弟子たちが必死になって戦っている。
蝉原は、
グっと、奥歯をかみしめて、全身に力をこめると、
(ヌルの封印が切れるまでに……すべてを終わらせる……)
気合いを入れなおしてから、
「どらぁあああああああっっ!」
咆哮と共に空間を駆け抜ける。
弟子たちは、みな、
蝉原の咆哮・突撃に対し、
『1002号の討伐を横取りしようとしている』
と考えていた。
皆、わかっていない。
弟子でありながら、
しかし、蝉原のことを、何もわかっていない。
蝉原は、
「まずは、一番ウザイやつからぁあああああ!!」
そう叫びながら、
「ぐふっ!」
ソプラノドールの心臓を貫いた。
血を吹き出すソプラノドールの姿。
弟子たちは、理解が出来ていない。
そんな、理解が追い付かない狭間の時間に、
蝉原は、たんたんと、職人のように仕事をこなしていく。
ソプラノドールの生命力をガッツリと削った上で、
ガブゥっと、くらいつく。
そして、そのまま丸のみ。
「はっはぁあああっ!」
ソプラノドールを吸収して膨れ上がる蝉原。
そこで止まらない。
蝉原の蛮行は、ここからがスタート。
蝉原の行動は、ここまでずっと電光石火。
すべて、コンマ数秒の出来事。
とにかく高速かつ迅速にことをなしていくため、
いまだ、弟子たちは、状況を正しく理解できていない。
その隙に、蝉原は、もう一匹を、おいしくいただきます。
次の狙いはボウ。
サクっと殺して、どわっと丸のみ。
また、蝉原の存在値が膨れ上がる。
と、そこらで、ようやく、
弟子たちも、現状が理解できたようで、
最初にデビナが、
「てめぇええええ、なにやってんだぁあああああああっ!」
バチギレで、蝉原に殴り掛かった。
かなりの速度。
明確な殺意。
しかし、もはや、すべてが遅かった。
デビナの力では、ふくれあがった蝉原を止めることは出来ない。
蝉原は、デビナの、反射的な抵抗を、適切に処理しながら、
1002号たちに対して、ノールックで、
「援護しろ、1002号! 元主人公どもも、残っている力を全部使って協力しろ! 望み通り裏切ってやる! ヌルを殺してやる! だから全力で俺のサポートをしろ!」
命令を下していく。
蝉原の命令を黙って聞くのはシャクだったが、
『蝉原がヌルを裏切る』という、
この状況は、普通にありがたいので、
1002号も、カミノたちも、
特に文句を言うことなく、
蝉原のサポートにまわり、
蝉原の弟子たちを処理していく。
まずは、ヌルをどうにかすること。
それが最優先。




