37話 俺は君に自由を奉げる。だから、俺に……夢をみせてくれ。
37話 俺は君に自由を奉げる。だから、俺に……夢をみせてくれ。
「封印から解き放たれた直後で悪いけれど、ザンクくん。……僕と契約して、魔法少女(CPU)になってよ」
「……え、少女にならなあかんの? TSは趣味ちゃうねんけど」
「くく。センくんのノリをなぞっただけで、特に意味はないから、テキトーに流してくれ。普通にCPUをしてくれれば、それで助かる。どうか、俺のCPUになってくれ」
「……嫌われ者のCPUとかしてもうたら、ザンクさんも、嫌われ者になってまうんとちゃう?」
「それが、何か問題あるかい?」
「んー……いや、特にないな……もともと、ザンクさんとか、かなりの嫌われ者やし。そもそも、ザンクさんは、他人の視線からも解き放たれた自由人や。周囲からどう思われようと、どうでもええ」
「素晴らしい性格だね。そんな、『俺的に理想的と言ってもいい君』に敬意を表し、本気の勧誘をしよう。……君に、究極の自由をあげるよ。俺と共に在れば……君は、真の意味で、自由になれる。約束するよ」
「スリも詐欺もお手の物な、最上位極悪犯罪者の約束……これほど無価値なもんはないよなぁ」
と笑いながらも、しかし、
ザンクは、ほぼ迷わず、蝉原の胸に手を当てて、
「今のままやと、ザンクさんの力が微妙すぎて、あんまり自由になれへんからなぁ……あんたのCPUをやることで、ほんまもんの自由を勝ち取る……というのも悪くないかもしれへん」
「これは契約だ。俺は君に自由を奉げる。だから、俺に……夢をみせてくれ」
「夢とか……ずいぶんとメルヘンチックなことをほざくやないかい」
「そういう、センチメンタルな気分になりたい時もある。それだけの話さ」
そんな蝉原の言葉に、
ザンクは、一度だけ笑ってから、
「――アンリミテッド・ソウル・アマルガメーション――」
蝉原と共に、自由を求めることを決断した。
蝉原を信じたわけじゃない。
ザンクは、蝉原の可能性に賭けると決断した自分の『自由なインスピレーション』を信じただけ。
『まっとうな邪推だけを理由に蝉原の提案を断る』だなんて……そんな不自は、許容できなかった。
蝉原の中に取り込まれていくザンク。
輝きが膨らんでいく。
無限の光じゃない。
すぐに収束して、
最後に一度だけ、美しくまたたく。
輝きがはれた時、そこには、ひとりの悪人が立っていた。
完全なる悪を求める、自由なアナーキー。
「トウシの方が良かった、という想いがないわけではない。けれど、ザンクの方がいいという想いもなくはないんだ。俺はあまり本音を言わないが、これだけは本音だと断言しておく。……無駄に倫理観が強いトウシよりも、善悪に頓着しないザンクの方が……俺のCPUとしてはふさわしい気がする。実際のところどうかは分からないけれど……少なくとも、俺の感情論上では、そういう結論が出ている。『俺がそう思うんなら、そうなんだろう。俺の中では』……といった具合かな」
などと、ブツブツ、あえてファントムにカスタムした独り言を口にする。
その口元は、ニタリと笑っている。
純粋無垢な悪意を、全身で表現する悪鬼。




