28話 蝉原勇吾は誰かの配下になどなれない。
28話 蝉原勇吾は誰かの配下になどなれない。
カミノは、とてもまっすぐな目で、
「……お前に提案だ、蝉原」
『センエース・ヌルを相手に全力で時間を稼ぐ』と決めた時から、ずっと練り上げていた作戦を実行にうつす。
「……ヌルを裏切れ」
カミノの愉快な提案を、
蝉原は、黙って聞いていた。
冷たい微笑に揺らぎはない。
悪意だけは汲み取れるが、真意はまったく見えてこないペルソナ。
蝉原を理解できる他者は存在しない。
原子爆弾のような無限性の悪意を、自分の中で完璧に統制できるという、異質さの塊である蝉原勇吾を理解できる者など、いてはいけないのである。
「蝉原勇吾。お前は誰かの下につくような男じゃないだろう」
カミノの提案はシンプルで真理をついている。
蝉原は、誰かの下につく男ではない。
誰かを崇拝することも、敬愛することもあり得ない。
「この上なく尊い陛下を裏切って……そして、君の仲間になれって?」
冷たい微笑みを崩さないままに、蝉原はそう問いかけてきた。
カミノは、軽く首を振って、
「そんなアホなことを言う気はない」
そう言いながら、カミノは、
(センエースのバグコピー体であるヌルよりも、蝉原の方が、確実に処理しやすい。どっちも敵に回す上では最悪だが、センエースと蝉原なら、まだ蝉原の方がいい。蝉原が相手なら、どうとでもなる。俺にはむずかしくても、センエースとトウシなら問題なく処理できる……はず。だから、蝉原に、ヌルを食ってもらう……これが現状のベスト)
心の中で、そんなことを考えつつ、
蝉原に対し、
「根源的に、お前は、誰の味方もしないし、誰の仲間にもならない。お前は、『お前の中にある悪意』以外を重視しない」
「くく。『君の中にいる俺』は、どうやら、かなりのアナーキーらしいね。でも、実際の俺は、今、普通に、ちゃんと、陛下の配下をしているけれど、その辺はどう思っているのかな?」
「お前は、『お前の中にある悪意以外』を『大事にするフリをするコトもいとわないぐらい、徹底した性格をしている』というだけの話」
「複雑な話だね」
「シンプルだよ。お前は、『ガチで終わっているヤクザ』だと断言しているだけの話」
そこで、カミノは、コンマ数秒の息継ぎを挟んで、
「……そして、お前は『お前個人で頑張れ』って話だ。ヌルの手先という窮屈さは、お前には似合わない。ヌルのことなんか放っておいて、お前はお前の好きにやれ。お前を縛る鎖は殺してやるから」
そう言って、カミノは、指をパチンと鳴らした。
最初から、そのつもりで、準備は進めてきていたので、スムーズにことが運ぶ。
なにもかも、全部、徹底的に準備した上で、
――今日、カミノは、ここにきた。
それに、もともと、ヌルと蝉原を繋いでいる鎖など、大したものではない。
いや、かなり重たいものではあるのだが、元主人公であるチーター『カミノ』にとっては、十分に、処理可能なもの。
「おやおや。陛下と俺のつながりが消えてしまったねぇ」
「もう、お前はヌルに縛られない。ヌルが死んでも、お前は死なない。自由になれよ、蝉原。……それとも、まさか、お前、ずっと、ヌルの手下をしていくつもりか?」




