17話 研ぎ澄まされた『人が持つ弱さ』の展覧会。
17話 研ぎ澄まされた『人が持つ弱さ』の展覧会。
「くく……そこまで無様になれるとは、もはや、素晴らしいとすら思うな。逆に敬意を表したい気分だよ」
死羅腑の煽りを受けて、
ギャンバルは、さらに激昂する。
なまけているという自覚がある人間は、往々にして、
『お前、なまけているよね』という指摘に対して、最大級の怒りを示す。
「無様だと! 何がだ! ふざけるなよ、化け物風情が! 人様の社会で生きていくことの辛さも知らないくせに! ただ、命を消費しているだけの化け物に、人間の苦労がわかってたまるか! ナメるなぁあ!」
ギャンバルは、そう叫びながら、
剣に魔法を込めて、全力で斬りかかった。
それなりのランクの剣気だが、伝導率が鈍っているのでパーセンテージは低い。
体が重い。
全盛期はもっと軽やかだった。
剣が重たい。
全盛期はもっと軽々と振るうことが出来た。
(――く、くそがぁ、俺はもっと動けただろう――)
不甲斐なさに溺れるギャンバルに、
死羅腑は、冷めた声で、
「底なしのマヌケが。『前線で歯をくいしばる』という日常を失った脱落者は、もはや戦士とは呼べない。貴様のようなカスが、剣などにぎるな、みっともない」
そう言いながら、死羅腑は、
ギャンバルの上段斬りを、あえて紙一重のところで回避して、
「その『ノロマな速度』が通じる世界に、この私がいるとでも?」
あえて、ガキを相手にするような、穏やかな口調でそう言ってから、
「とことん、あわれだな」
死羅腑は、ギャンバルの右腕を引きちぎった。
それは、『腐ったエンピツ』をヘシ折るぐらいの、軽い感覚だった。
「ぎゃあああああっ!」
「腕が折れただけで、そこまで叫んでいては、これから大変だぞ」
嗜虐的な声音でそう言いながら、
続けて、死羅腑は、ギャンバルの右足を、
『死神のカマ』で、サクっと切った。
また、悲鳴をあげるギャンバル。
覇剣のメンバーは、その光景を黙って見ているしかなかった。
すでに、全員、戦意を喪失している。
死羅腑は、あまりにも強すぎた。
「これから……努力する……」
ギャンバルは、ボロボロの体をかばうようにして、
「努力すると誓う……だから……こいつを殺せる……力を……くれよ、世界!」
そんなことを口にした。
それを受けて、死羅腑は、呆れた顔を見せて、
「え……ま、まさか……それは、アリア・ギアスのつもりか? は、ははっ!」
さすがに、耐えきれなくなって、大声で笑ってしまった。
嘲笑ではなく、爆笑。
面白すぎて、たまらなかった。
「今の贅肉を未来に丸投げとはおそれいった」
何度か首を横に振って、
「せめて、命の一つぐらい、賭けてみたらどうだ? 絶死のアリア・ギアスでも積めば、私に、一太刀ぐらい、浴びせることもできるかもしれないぞ」
「……死にたくない……から……祈っているんだ……っ」
「はは……あ、そう」
完全に興味をなくしたように、そういうと、
死羅腑は、
「それじゃあ、そろそろ死のうか」
そう言いながら、
『死神のカマ』を天高く振り上げた。
死羅腑の殺気を受け止めたギャンバルは、
(……死ぬ……)
ようやく、現実を受け止める。
そして、圧縮された時間の中で、自分の人生について考えた。
頑張って上を目指している時は濃密だったが、
ここの警備を任されるようになってからは何もなかった。
(……は……はは……走馬灯、みじかっ……)




