16話 苦悩から逃げた者の末路。
16話 苦悩から逃げた者の末路。
ギャンバルは強い戦士である。
強さを求める中で、多くのモンスターとも闘ってきた。
だからこそ、そこらの一般人よりも、化け物の怖さは知っている。
ギャンバルは、かつて、神級の二つ下のランクである『王級のモンスター』と戦ったことがある。
チームメンバーと結束し、なんとか、勝利をおさめることはできたが、ギリギリの勝利だった。
あの時は、明確に死を覚悟した。
それまでは、勇敢に、力を求めていたギャンバルだったが、
あの日、心が折れてしまい、
以降は、帝国の犬として、カジノの護衛をすることになった。
(クソが……楽な仕事のはずだったのに……なんで、こんなことに……なんで、また、死線をくぐらないといけないんだ、くそったれ……)
――カジノ護衛の生活は最高だった。
死の恐怖におびえる必要はない。
強さを求めて死に物狂いになる必要もない。
ただ、毎日、酒を飲んで笑っていれば、それでよかった。
「……どいつもこいつも動きが鈍いな。鍛錬不足きわまりない」
戦闘が開始してすぐ、
死羅腑は、覇剣のサビつき具合をバカにした。
存在値は300前後と、高いレベルを保っているものの、
戦闘力という点では、すっかりとサビついてしまった。
かつてのギャンバルの戦闘力評価は、『★★★☆』ぐらいはあった。
だが、今では『★★』が精々。
「が、はっ……っ!」
ギャンバルは、ふんばった。
今の自分に出来る全力で抗ってみた。
しかし、神級モンスターが相手だと、傷一つつけることは叶わず、一瞬で吹っ飛ばされる。
その無様な姿に対し、死羅腑は、
「贅肉だらけの戦闘力……どれだけナマけたら、それだけ腐ることができるのか。逆に教えてもらいたいな」
ギャンバルは、まぎれもなく『10つ星』の冒険者。
確かに、最盛期と比べれば衰えてはいるが、
まだまだ、この世界では『最上位の強者』のカテゴリに入る。
仮に、バースディ・カルマとやり合った場合、戦士とアサシンで相性が悪いため、バースディの方が勝利する確率は遥かに高い。
だが、それは、あくまでも相性の話であって、
ギャンバルが弱いというわけではない。
――バースディもギャンバルも、死羅腑の視点では弱すぎるだけ。
その事実を知らないギャンバルは、
『衰え』を的確に指摘された気分になってしまった。
これは、ただの被害妄想。
前線から逃げてしまったことに対する負い目や羞恥心からくる疑心暗鬼。
「……な、なまけたんじゃ……ないっ」
恥ずかしさを握りつぶそうとしているような声をあげる。
「仕事の拘束時間が長いから……鍛錬に割ける時間がないだけだ……前線から逃げたのではなく、ただ、こういう仕事についてしまった……ただ、それだけだ。でも、必要な仕事だ。誰かがやらなければいけない。それが、たまたま俺だった。それだけだ! 人の仕事を、バカにするんじゃねぇえ!」
完全にただの言い訳である。
言い訳でなかったとしても、
死羅腑からすれば、死ぬほどどうでもいい話。
「くく……そこまで無様になれるとは、もはや、素晴らしいとすら思うな。逆に敬意を表したい気分だよ」




