2話 丁寧な削り合い。
2話 丁寧な削り合い。
――『カミノ・キメラ』は、ヌルの特質を十全に理解している。
深く理解しているのにもかかわらず、しかし、ヌルに対して、『たぶん、いけんだろう』と、ナメたことを考えてしまう。そんな自分を叱咤するカミノ。いくら自分をいさめようとしても、しかし、ヌルの特性は、そんなカミノの精神的保護フィールドを貫通してくる。
ヌルを相手にするときは、
純粋なフィジカルの勝負だけではなく、
盤外のメンタル勝負でも出血を強いられる。
――ヌルは、そんな自分の特質の『怖さ』をきっちりと把握している。
だから、ヌルは、誰が相手でも油断はしない。
常に精神を極限状態においている。
だから、戦力的に大きな差がある『カミノ』ごときが相手でも決して油断せず、丁寧な対応をこころがけている。
互いに、高次の魔法と、ヒット&アウェイを駆使して、
相手の『底』をはかろうと、丹念に立ち回っている。
挨拶のジャブも撃ち尽くした。
将棋で言えば、角を交換しあったような状態。
囲碁で言えば、互いの隅に布石を打ちあった状態。
そろそろ、たがいの『精神陣形』が整ってきた、
そんな、『両者が初手の一息を求める頃合い』に、
カミノが、
「……今、俺の世界の中心で、センエースが、『絶対的主人公補正』を否定した」
かるく一発、カマしていく。
カミノは、『自分の中にある世界』を監視しつつヌルと戦っている。
これは、決してナメプではなく、
そうせざるをえない状況にある、というだけの話。
『絶対的主人公補正』の否定は、ヌルの否定。
絶対的主人公補正という名の『過保護バリア』は、『センエース・ヌル』の根幹。
それを、オリジナルが否定した。
この事実をもって、カミノは、ヌルの精神に一発をかました。
『これで、相手がショックを受けるだろう』とか、そんなことを考えているわけではない。
所詮は布石の布石。
削りですらない、牽制置きの生ローに過ぎない。
――カミノの発言を受けて、
ヌルは、ボソっと、
「……正解の手段とは言い難い」
などと、『明確な強がり』を、のたまった。
互いに互いを理解している者同士の、あまりにも深い部分での対話。
内容が深い、という意味ではなく、お互いのメンタルの奥底に届く会話という意味。
『50年連れ添った夫婦』なら、お互いの『一番言われたくない悪口』が明瞭に分かる――そんな感じの泥沼的な深さ。
別に、この二人は夫婦ではないが、しかし、『関係性の面倒くささ』という点においては、『夫婦という結びつき』を凌駕していると言っても過言ではない。
『諸悪の根源センエース・ヌル』は、『力の器』を山ほどもっているわけだが、
その中でも、とりわけ、『願い玉とのリンク』が、かなり大きな割合を占めている。
センエース・ヌルは、『膨大な力を得るまでの過程』で、『願い玉』と言われる『ドラゴ〇ボールのパチモン』みたいなものを自分の中に取り込んでいる。
『願い玉』がどういうものか、簡単に言えば『アリア・ギアスシステムの中核』をなしているもの。
中核そのものではなく、中核を担っている一部でしかない――のだが、その部分を制圧していて、かつ、アリア・ギアスシステムを担当している『世界の管理者ソル』をも取り込んでいるため、実質的なシステムの支配権は、現在、センエース・ヌルにある。
そんな願い玉の中にある『闇』こそが、禁止魔カードの根源。
禁止魔カードとは、カミノ・キメラが世界に定めたイタズラ心であり、緊急用のバックドア。
ごちゃごちゃ前提を並べたが、
『大事なことを一言でまとめる』と、
『ヌルによる悲惨な現状の根本の原因はカミノにある』
――と言っても、実は過言ではないということ。




