最終話 ツンデレ。
最終話 ツンデレ。
「お前は、俺から全てを奪った。尊厳も、誇りも、可能性も、友人も、恋人も。……俺はてめぇを許さない」
「おどれに、友人と恋人っておったっけ?」
「いたさ。お前のせいで失っただけだ。どこの誰とは言えないし、記憶にもないし、証拠もないが、お前のせいで失った気がする。俺は詳しいんだ」
「うん、まあ、もう、好きにほざいてくれてええねんけど……とりあえず、話を進めさせてもらう。いったん、もう、お前、夜の学校にくんな。携帯ドラゴンを使えんという前提がある以上、マジで、使いもんにならん。正直、お前の記憶を見た限り、ワシよりも、お前の方が遥かに『資質が高そう』やから、お前に頑張ってほしかったけど、マジで、今のお前はなんにもできんっぽいから、普通に邪魔やねん」
「神話生物関連のごたごたに関わる気はない。昨夜、俺は単三を買いにいっただけだ。その途中で、道に迷って、学校に迷い込んだだけの迷える迷子。それが俺だ。それ以上でも、それ以下でもない」
かたくななセンの態度を受けて、
田中は、視線の強度をかえた。
意味のあるメッセージを伝えようとしているのが分かる熱量で、
田中は、
「……ここから先は、『お前の夢』が『現実』で、『この世界』が、『もし、夢の中やったら』というのを前提にした上での話をさせてもらう」
田中は、思慮深く、全方位を見据えながら、
「……正直な話、その可能性は非常に高いと思う。頭がすっきりし始めてから、色々と、この世界に対して思考してみたんやけど、なんか、どうも、妙なところが多い気がする。具体的に言い始めたらキリがないぐらい、この世界は……妙な気がする。この世界と比べて、お前と合体しとる時に見た、お前の記憶の中の……お前が『神の王をやっとる世界』は……完成度が高い気がしてならん。どっちの方が夢か、と考えた場合……この世界の方が、夢である可能性は高い気がする。いや、夢って言い方は、もうやめよか。そういう次元やない。この世界は、普通に存在しとる。ただ、『データ量の少ない、かりそめの世界』である可能性が非常に高い気がする。――『一時的に用意されたテスト用の特殊空間』……と認識するのがベスト。それがワシの結論」
「で? だから?」
「お前が死んだらやばい。お前は、『本来の世界』の精神的支柱。そのお前を、どうにかして殺すための空間……それが、この世界の現状ではないか、というのがワシの第二結論。その第二結論に至るための前提は単純。本来、お前の資質を考えたら、携帯ドラゴンが使えてしかるべきやのに使えない。そして、お前は、例え、自分が力をもっていなくとも、弱い命を前にしたら、前線で盾にならずにはいられない。これらの前提から、この世界は、お前を殺すための世界ではないかと結論づける」
「……」
「まあ、お前を『新たなステージに導くための世界』という可能性もゼロではないんやけど、そういう希望的観測を前提に事を進めるだけの勇気は、ワシにはない。最悪を想定し、最悪を回避するために行動するのが、現状のベター。……というわけで、この『面倒な現状』は、ワシがどうにか処理するから、お前は余計なことをせん方がええ。この世界における、お前のミッションは、敵を倒すことやなく、生きて、本来の世界にかえること……やと、ワシは言い切りたい」
そんな田中の発言を受けて、
センは、腕組みをして、
うんうんと、首を盾に振ってから、
「俺のために尽くそうとは、なかなか、見上げた心意気。あっぱれ。くるしゅうない。ちこうよれ、ビンタをしてやろう」
「なんでやねん」
「猪木的なアレだよ。『頑張れ』って感じのビンタをしてやる。命の王の『闘魂注入』だぞ。ありがたく思え」
「最初にちゃんと言うとくけど、『お前のために、ワシが動く』ということはない。ワシはワシのために、お前を残したいだけ。『ホンマに厄介な敵が出てきた時のための人間核爆弾』をなくしたくないだけ」
「そんなこと言って、ほんとは俺のことが大好きなくせに、ツンデレな田中きゅん♪」
「……えっぐ、きっしょ」
「ちょっとでも不快な思いをしてくれたのなら何よりだ。俺はお前に、あらゆる角度から『マイナス』をたたきつけるために生きている。お前の不幸だけが俺の生きる糧。それ以外のことは全て些事」
「……命の王に、ここまで嫌われるとはなぁ……それは、それで、でかい自慢と言えなくもないかもなぁ」
などと、軽い皮肉で、散らかった場を整える田中。
朝日が窓からのぞき込む。
そんな、穏やかな朝の一幕。




