38話 病的な高潔であり、人類の精神的支柱であり、不屈の魂魄が輝かしい、尊さの最果てである命の王センエースさん。
38話 病的な高潔であり、人類の精神的支柱であり、不屈の魂魄が輝かしい、尊さの最果てである命の王センエースさん。
「こんなことが、あっていいのかぁああああ! 頑張ったのは俺だぞぉおおお! 田中なんざ、ただ天才だっただけだろうぁあああ! 頑張ったのは俺なのにぃいいい! いつだって、頑張っているのは俺なのに、なんで、田中ばっかり、勝利の栄光を根こそぎ持っていくんだぁあああ! ふざけんなぁああああ!」
慟哭が止まらない。
血走った目で、叫ぶ憤怒。
「殺す、殺す、絶対に殺すぅうううう! お前だけは許さなぁああああああい!」
と、奇声を上げ続けるセンのことを、
ナグモは、ドン引きの目で見つめていた。
ヤバいやつを見る目。
ナグモの視点では、センは、
『一緒に謎の状況に巻き込まれた被害者』でしかない。
『助けてもらった』という印象はゼロ。
決して、ヒーローとは認識していない。
ナグモの視点でのセンは、
なんだか、ずっと、わーわーとわめいていて、
そして、何度か、ツァールに殴り掛かってはいたが、
当然のように何もできず、相手にもされていなかったザコ、
という程度の認識。
そんなザコが、
『颯爽と助けてくれたヒーロー』に、
訳の分からんイチャモンをつけているので、
当然、そのザコに対する視線は冷たくなる。
そんな、絶対零度な視線を感じたセンは、
ナグモをにらみつけて、
「てめぇ、なんだ、その目は、ごらぁああ! やんのか、あああん?! 最初から思っていたが、てめぇ、なんかイラつくんだよぉおお! なにがどうとは言えんけど、なんか、腹立つぅうう! やるならやったんぞ! かかってこいや、カス、ぼけぇええ! 俺は、真の男女平等をうたっているフェミニストの王様だからなぁ! 相手が女だろうと、子供だろうと、関係ねぇ! イラつくやつは、全員、平等に、ぶっ飛ばす! 特に理由がない時でも、気分次第では、ぶっ飛ばす! それが俺の生きざまぁ! よろしくぅ!」
「さ、最低……」
と、素直に思ったことを口にする実直な女の子、ナグモナオ。
彼女の言葉で、センは、さらに沸騰する。
「てめぇえええ! 最低だと、ごらぁああ! 病的な高潔であり、人類の精神的支柱であり、不屈の魂魄が輝かしい、尊さの最果てである命の王センエースさんに向かって、ナメた口をききやがってぇ! てめぇの呼吸器系が、今、そうやって、のうのうと酸素と二酸化炭素を交換できているのは、俺が、命を張って守ってやったからだぞ!」
「いや、守ってやったって……あんたには、何もされてないんだけど……あんたなんて、最初から、ずっと、わけわかんない事を叫んでいるか、化け物にボコボコにされていただけじゃない。……さっきのツァールとかいう化け物を倒してくれたのも、私の腕を直してくれたのも、全部、彼なんだけど」
と、田中を指さしながらそう言う彼女に、
センは、これみよがしの深いため息を吐き散らかしてから、
「この上なく愚劣! 馬と鹿がエンドレスワルツ! 脳の回路が、鈍重かつ愚鈍! たわけで、トンチキな、おたんこなす! もはや、いっしゅうまわって、いとおかし!」




