37話 理想の主人公、見参!
37話 理想の主人公、見参!
山ほどの剣に貫かれ、ハリネズミみたいになっているツァールの全身。
意識朦朧。だが、まだ、ギリギリ死んでいない。
そんなツァールに、追撃の一手が降り注ぐ。
「――【ハタタカミ:ソードスコール・ノヴァ】――」
それは、雷をまとった剣の豪雨だった。通常のソードスコールでも、ほとんど死にかけていたツァールに、無数のオーバーキルが降り注ぐ。
当たり前だが、
ツァールは、秒で死滅した。
先ほどの攻撃は、次元が違い過ぎた。
灰すら残さず、完璧に消滅。
それを目の当たりにしたセンは、
ツァールという絶望を前にした時よりも、
遥かに深い絶望に染まった顔で、
キっと、天を睨み、
ツァールを殺した化け物をにらみつける。
天に座すのは、優雅に下界を見下ろしている銀の流星。
つい反射的に『理想の主人公』と評価したくなる化け物を睨みながら、
センは、
「っっ、てめぇええええええ! ふざけんなよ、ちくしょぉおおお! これが、お前のやり方かぁあああああ!! 人様の手柄を、横からかっさらうとか、それでも人間かぁあああああ! てめぇの血は何色だぁあああ!」
怒りをあらわにする。
暴走する獣。
『世界一嫌いな知人』を前にして、通常の思考を見失う。
「ふざっけんな、田中ぁ! ここからだったんだ! ここから、俺のオンステージがはじまるはずだったのに、なに、邪魔してくれてんだ、糞野郎!」
「だいぶヤバそうやったところを、間一髪助けたったのに、なんやねん、その言い草。ほんま、腹立つやっちゃなぁ」
地上に降りてきた田中は、
携帯ドラゴンとの融合変身を解除して、
チラっと、
奥にいるナグモの腕を視認すると、
「エルメス、彼女の腕を再生させてくれ」
と、命令を下す。
田中の携帯ドラゴン『エルメス』は、
返事すらせず、当然のように、ナグモのもとまで近寄り、
彼女の腕に向けて、ペカーっと、眼球光線をあびせた。
すると、
スゥウウっと、爆散されたナグモの腕が再生されていく。
「……す、すご……」
と、純粋に驚いてから、
「あ、ありがとう……」
と、キラキラした目で田中を見つめる。
「す、すごいね、君……すごいっていうか……うん、もう、ほんと……すごい……」
と、純粋な称賛が止まらないナグモ。
それも、当然の話。
田中シャインピースは、
ツァールという『圧倒的な力を持つ化け物』を、一瞬で圧殺した超人であり、
かつ、爆散した腕を即座に直してくれた紳士でもある。
ならば、焦がれない方がおかしいというもの。
その様子を見ていたセンは、
全力で奥歯をかみしめて、
「こんなことが、あっていいのかぁああああ! 頑張ったのは俺だぞぉおおお! 田中なんざ、ただ天才だっただけだろうぁあああ! 頑張ったのは俺なのにぃいいい! いつだって、頑張っているのは俺なのに、なんで、田中ばっかり、勝利の栄光を根こそぎ持っていくんだぁあああ! ふざけんなぁああああ!」
慟哭が止まらない。
センの中に刻み込まれた人間失格が暴走。
いや、おそらく、人間失格なんかなくとも、同じような反応にはなっていただろう。
センエースの、田中に対する憎悪はファンションじゃない。




