36話 お邪魔虫。
36話 お邪魔虫。
「……なるほど、なるほど。原動力は不明だが……仕組みは、だいたい理解できた。ようするには、ソウルゲートの劣化版か。……ソウルゲートを破壊するようなマネはできないが……さすがに、この程度の脆い領域を破壊するぐらいなら問題ない」
そうつぶやき、ツァールは、
両手に魔力を集中させて、
「――壊空ランク32――」
と、魔法を使いながら、両手を交差させる。
すると、
パリィインッッ!
と、ガラスが砕けるような音が響き渡った。
その直後、
センとツァールの視界の隅で、
先ほどまで、ほぼ完全停止していたナグモが、
普通に動き始めた。
別に、何かアクティブに行動しているわけではないが、
呼吸やまばたきなんかで、通常通りの速度を見せている。
それを認識したセンは、
渋い顔で、
「ぅ、うぜぇ……もっと、強固にしてくれや……こんな、鼻息で吹き飛ぶような強度でいいと思ってんのか、ボケが……やりなおしを要求する。今度は、ツァールごときに破壊されないヤツでよろしく」
と、しっかりとしたワガママをかましていく。
しかし、世界は応えてくれなかった。
その状況を、センの中から見つめていたヨグが、
(……当たり前だが、世界の献身は、無尽蔵ではない。世界が、貴様のために割けるリソースには限りがある。もう、貴様は使い切ってしまった)
「……あ、そう……どいつもこいつも、しょっぱいねぇ……全速力で駆け抜けてきて……ふと気が付いて、振り向いたら、誰もついていなかった……まったく、情けない……」
センは、奥歯をかみしめて、一度、天を仰いでから、
「人間失格なんて、大層な名前がついている割には、ずいぶんと、程度のひくい力だな……名前負けにもほどがある。ピエロ感と狂気がたりねぇ……恥がたりねぇ……承認欲求と自意識がたりねぇ……つまりは、ギルティとセンセーショナルがたりねぇ。……その程度じゃ、俺の器たりえねぇ……」
ぶちぶちと、自分の中にあるものにダメ出ししてから、
「人間失格は、使い物にならねぇゴミスキルだった。おーけー。それなら、それで、別にかまわねぇ……だったら、だったで……別の方法を探す。それだけの話だ……」
ギンギラギンに血走った目でツァールをにらみつけ、
「何度でも、覚醒して、何度でも殺す。最後の最後まで付き合ってもらう。さあ、行こうか――」
と、とびっきりのイカれた根性をむき出しにしたセン。
だが、そこで、
「――【ソードスコール・ノヴァ】――」
不愉快な声が天上から響いた。
……と思った直後、
ツァールの全身が、
「どぐぁあああああああああああああああああああああっっ!!」
串刺し。
山ほどの剣に貫かれ、ハリネズミみたいになっているツァールの全身。
「が……ぁ……」
意識朦朧。
だが、まだ、ギリギリ死んでいない。
そんなツァールに、
追撃の一手が降り注ぐ。
「――【ハタタカミ:ソードスコール・ノヴァ】――」
それは、雷をまとった剣の豪雨だった。
通常のソードスコールでも、ほとんど死にかけていたツァールに、
無数のオーバーキルが降り注ぐ。




