35話 命令だ。もう一回、よこせ。倍プッシュだ。
35話 命令だ。もう一回、よこせ。倍プッシュだ。
「ははははははは! これはいい! なんという邪悪さ! これほどの毒……そこらの神格では扱いきれないだろうが……私ならば、ギリギリさばける! ははははは! いいぞ! 素晴らしい! これは……もはや、アウターゴッドの領域にいるんじゃないか?!」
(アウターゴッドを侮りすぎだろ……確かに、ちょっと膨らんだが、今のてめぇは、ウムルより強いぐらいだ……そこそこの強化だが、アウターゴッドと比べればゴミ……)
と、心の中で寸評してから、センは、
(さて、どうしようかな……心臓、くわれちまったよ……これ、俺、死ぬね……てか、なんで、今、俺が生きているのか不明だからね……今、心臓ないんだけどね……キモいわぁ、俺……)
自分自身のキモさにひいた上で、
(さて、マジで、どうする? 心臓……取り返さないと、さすがに、そろそろ死ぬんだが……)
と、現状を理解しているセンは、
(とりあえず……できることは、やっておくか……)
と、はらを決めなおしてから、
心を統一して、
肉体の全てを意識と無意識の支配下において、
「閃拳!」
気合いを入れた閃拳を叩き込む。
先ほどよりも重たく、ツァールに刺さる。
だから、ツァールも、
「あ? ……なんだ、今の一撃……なぜ、そんなにも質量のある拳を放てる? 根源の心臓を抜き取って、私の中に収めているのに……というか、貴様、そもそもにして、なぜ生きているんだ? ……貴様、バグっているな」
と、素直な感想を口にした。
そんなツァールの視線の先で、
センは、
虚空を睨みながら、
「命令だ……もう一回、よこせ。あとで回収していいから。……ほしいなら、全部、くれてやるから。……だから……もう一度、俺に、30年をよこせ……」
その命令に、
世界は従った。
センとツァールの時間だけが極端に遅くなる。
ナグモは、この圧縮された時間には含まれていない。
だから、センとツァールの視点では、彼女は停止しているように見えた。
極端に遅くなった時間の中で、センは、
「さあ……行こうか……」
燃え盛るような、激しい覚悟を胸に秘めて、目を血走らせる修羅。
そんなセンに、ツァールは、
「これは……まさか、時間を操っているのか? どうやって? 貴様の魔力量で、こんな真似ができるわけ……絶対に不可能――」
純粋な疑問を抱いている彼に、
センは、
「だいたいの不可能は、可能のフラグでしかねぇ。成功率1%は1000%成功する。それがこの世界の常識だ。把握できたか、クソ化け物ぉおおお!」
叫びながら特攻。
後先考えないアホの一手。
そんなセンの攻撃を、
ツァールは、
「……ふむ。なるほど」
現状を解析しつつ、スルリと回避。
センの攻撃など、まったく意に介していない様子。
センは、
「シカトこいてんじゃねぇぞ、カスがぁ!」
わめきながら、
「神速閃拳!!」
爆速の連打を叩きこんでいくが、
ツァールは、それも全て無視。
「……なるほど、なるほど。原動力は不明だが……仕組みは、だいたい理解できた。ようするには、ソウルゲートの劣化版か……」
あらかた理解したツァールは、
「ソウルゲートを破壊するようなマネはできないが……さすがに、この程度の脆い領域を破壊するぐらいなら問題ない」




