32話 命令するけど、今回の命令は、できれば忖度してくれ。
32話 命令するけど、今回の命令は、できれば忖度してくれ。
「ちょっ、うるせぇ……腕一本でガタガタわめくな……こっちは、何度も両手両足吹っ飛んで、内臓も頭も、幾度となく爆散して、それでも、たいして文句も言わず、歯ぁ食いしばって生きてんだぞ。そんだけ苦しい想いをして、それでも世界を守ってきた、そんな俺の栄誉をたたえ、拍手喝采をおくってこい。片腕だから拍手できないって? 心配すんな。心が正しい形をなせば、両腕なくとも、拍手の音は世界に鳴り響く」
と、むちゃくちゃな要求をしていくセン。
人間失格の影響なのか、だいぶ性格が終わっている。
根本は変わっちゃいないが、とげとげしさが増している。
表情も、セリフも、すべて、どうみても、ヤバいDQNです。
本当にありがとうございました。
「ああああああっ!」
と、センの発言など一切シカトで、ずっとやかましい彼女を尻目に、
「くそが……」
と、しんどそうに天を仰いでから、
誰にも聞こえない程度の小さな声で、ぼそぼそと、
「世界さんよぉ……き、聞かなくてもいいけど、一応、命令だ……あ、あいつの痛みを俺に……よこせ。め、命令はしたけど……この命令は、そんなに頑張って聞かなくてもいいぞ。ていうか、忖度してくれ。これは、巧妙にシカトすべき案件だ。難聴系主人公よろしく『え? なんて?』と聞き返してくれれば、それで事足りる。わかるな。わかるよな?」
と、もう、『何が何だかわからない命令』を世界にくだす。
『仙豆をよこせ』という命令は完全にシカトした世界だが、
しかし『今回の命令』に関しては、なぜか、ウッキウキで、
「ぐぉおおおっ!」
センの右腕に激痛が走る。
別に爆散しているわけではないが、爆散した級の痛みが腕に広がる。
世界は、まるで、長年仕えてきた老執事のような俊敏さと完璧さでもって、センエースの命令を遵守したのだ。
「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ、痛ぇえええええ! もぉおお! なんで、こんな、シカトしてほしい願いには従順?! ウザすぎんだろ、くそったれぇええええ! 俺のことが、そんなに嫌いか、世界! そんなに嫌いなら、いっそ、殺せぇええ! 俺よりも、この世界の方が、よっぽど、人間失格なんですけどぉおおおお! もぉおおお!」
と、ピーピーわめきながら、激痛にもだえているセンの視界のすみで、
ナグモが、
「あ、あれ……え? ……え、痛……いた……い? あれ? 麻痺……してきた?」
涙を流しながらも、しかし、
『痛みが消えていること』を疑問に思いながら首をかしげる。
己の中の痛みと向き合うことに必死で、
センが『ワーワー叫んでいること』には気がついていない。
そんな、ワケの分からん『混沌とした状況』の中、
ナグモの腕を媒体にして生成されたジオメトリが、
怪しい光を、強めに放出する。
その光は、空中で結集して、
そして、
「……ぷはぁ」
形になる。
GOOの体。
色合いは青で、見た目はロイガーの色違い。
その化け物は、センとナグモをチラ見して、
「まずは、自己紹介といこうか。私はツァールという。この地で殺されたロイガーとは双子の関係にある。どちらが兄かは聞かないでくれ。その辺は、繊細な問題なんでね」




