27話 30年は決して安くない数字。
27話 30年は決して安くない数字。
「よし……マテリアルは完全に元通りだな」
センの命令にしたがい、世界が稼働した結果、謎の風がビュォオオっと吹いて、灰が、華麗に舞い上がり、気付いた時には、当然のように、ナグモナオの肉体が完全に再生されていた。
そんな彼女の器の中に、
センは、先ほど、壊れたナグモからスったフラグメントをぶちこんでいく。
だが、
「……復活しねぇ……素材が足りないのか……ちっ……」
センは、少しだけ逡巡したが、
「……しゃーねぇ……」
そうつぶやきながら、
自分の手首に、ヨグナイフの刃をあてて、
「すぅう……はぁああ……」
と、軽く気合いの入った深呼吸を挟んでから、
グっと、刃物をに力を込めていく。
「うぎぎぎぎ……っ」
あふれる鮮血。
全身を駆け抜ける激痛。
全部に耐えて、
センは、ナグモの器に、命の素材をそそぎこむ。
「はぁ……はぁ……なんで、見ず知らずの女のために……ここまでやんねぇといけねぇんだ……くそぼけ、かす……そりゃ、心臓に穴をあけるよりはマシだけどよぉ……引くほど痛ぇって事実に変わりはねぇんだぞ、カスが……ぼけぇ……」
とめどない文句を口にしつつも、
必要な量の血をぶちこんだセン。
オーラで止血して、それ以上血を流さないようにする。
まだキリキリとした『鈍くて重い痛み』が残っている。
それに、フラッフラした。
普通に眩暈がして、立っていられなくなって、その場でうずくまる。
頭がズキズキして、視界がぐらぐらしている。
「……はぁああ……」
力が入らない体。
しかし、狂ったようなプライドだけを支えにして、
センは立ち上がり、
「さ……さっさと、甦れ……」
命令する。
すると、ナグモの器が、
パァアアっと、一度、暖かい光に包まれて、
そして、
「……ん……」
ゆっくりと目を覚ますナグモ。
本来の意識を取り戻したナグモは、
周囲に視線を配り、
「え……なに? どういうこと?」
と、純粋で無垢な困惑をしめす。
そんな彼女を見て安心したのか、
センは、
「……ふぅ……」
と、一度タメ息をつくと、
「おっと」
流石に、もう自分を支えることが出来なくなった。
普通に気が抜けて、その場にドカっと尻餅をついた。
ケツの骨に、でかい衝撃がきたが、そんなものを気にしている余裕はなかった。
圧縮された時間の中、根性だけで30年。
格上相手に、ずっと、ずっと、肉体・精神、ともにフル稼働で闘い続けてきた上で、大量の血を流したので、当然、ドン引きするほど疲弊している。
『口に出した覚悟』は決してレプリカではなく、がちで、相手がその気なら、『1兆年』でも闘いつづける覚悟はあった。
それを可能とするだけの『狂った根性』がセンエースにあるのは事実。
けど、だからって、『30年以上の労力』が安いかというと、もちろん、決してそうではない。
30年は30年である。
その時間に伴う労力に嘘偽りはない。
1兆年を積む覚悟があったからといって、30年の努力が『1兆分の30程度の労力』という計算にはならない。
『大学を出て、定年近くまで働きぬく』――それに匹敵するだけの時間を不眠不休の命がけでやりぬいたのだから、当然、体は限界がきている。
センエースの根性を基準に考えると、30年の重さを『やすい数字』と勘違いしいそうになるが、実際のところ、30年という数字は、とんでもなく頭おかしい数字。




