26話 残り9999億9999万9970年。がんばれ、ナグモ。
26話 残り9999億9999万9970年。がんばれ、ナグモ。
「てめぇの中心を切り刻めるようになるまで、てめぇの命で鍛錬させてもらう。文句は言わせねぇ。言ってもいいが、聞いてやる気は毛頭ねぇ」
「貴様が私を削り切れるようになるよりもかなり早い段階で、私が貴様を殺していることだろう」
常識的な言葉を口にする壊れたナグモ。
壊れたナグモは、まだ、センエースを理解していない。
圧縮された時間の中で、
センは、延々とくりかえした。
自分が最も得意とすることを、
馬鹿みたいに、淡々と、とうとうと。
――そんなみっともない時間が、およそ、30年分。
その数字は、『圧縮された時間の話』なので、『実際の時間』は、数秒程度しか経過していない。
だが、この二人が実際に体感した時間は、まぎれもなく数十年分に及ぶ。
「い、いつまで……闘うつもりだ……もう、この状況になってから、30年以上たっているぞ……こ、こんなことを……いつまで……」
朦朧としている壊れたナグモに、
「しょっぱいヤツだな……たかが、数十年ちょっとでフラつきやがって。言っておくが、俺は、最低でも、あと1兆年ぐらいは、お前と、こうしてやりあっていくつもりだぞ。残り9999億9999万9970年。がんばれ、がんばれ」
「……っ……」
まだ、壊れたナグモの生命力は残っていたが、しかし、体が、どんどん灰になっていく。
それを見て、センは、
「ん? おやおや。やれやれ……どうやら、心が折れてきたようだな。まだ、生命力を使い切ったわけでもないのに、真っ白の灰になりかけているじゃないか。この俺様を見習えよ。俺は、一度も灰になったことは……あれ……確か、バーチャを殺すとき、灰になったっけ? まあ、でも、あれは、全生命力を完全に使い切ったからであって、折れたからじゃねぇ。俺は一度も折れたことは……いや、まあ、あるけど……一回だけ、田中に折られたけど……でも、十代のガキの頃の話だし、普通にノーカンだろ? ノーカン、ノーカン、ノーカン!」
と、自由奔放に自己中を炸裂させているセンの前で、
壊れたナグモは、
「つ、付き合ってられん……」
と、呆れ交じりの捨て台詞を残し、
そのまま、サァっと、完全な灰になってしまった。
センは、
「話にならん野郎だ。そんな程度で、よくもまあ、俺の相手をしようと思ったな。ヘソで沸いた茶が蒸発するぜ」
などと、ちょっと何言っているか分からないことを口にしてから、
ナグモの灰をかきあつめて、
「……コレを『丁寧に再生させるスキル』なんか、今の俺にはないわけだが……しかし、俺にそのスキルがあるか否かはどうでもいい。俺はただ望めばいい。それだけで、俺を愛する世界が勝手に動いてくれる。そうだろう?」
と、ワガママなパワハラを世界にかましていくセン。
そんなワガママな命令を、当然のように遵守する世界。
優しい世界……っ!
「よし……マテリアルは完全に元通りだな」
センの命令にしたがい、
世界が稼働した結果、
謎の風がビュォオオっと吹いて、
灰が、華麗に舞い上がり、
気付いた時には、当然のように、
ナグモナオの肉体が完全に再生されていた。




