25話 表裏一体。
25話 表裏一体。
「時間よ。少し進むのが速いな。壊れたナグモも含めていいから、もっと遅くなれ。この俺様の命令だ。無視するなよ」
人間失格の裏効果、世界に対して『パワハラなワガママ(デバッグコマンド)』を言えるようになる。あくまでも『ワガママを口にできる』というだけの話であり、そのワガママを世界が聞いてくれるかは別の話。
決して、ワガママを強制できる力ではない。そんなチートが、センエースの器になるわけがない。
今回のワガママは、どうやら、通ったらしく、
センと壊れたナグモの時間だけが極端に遅くなる。
遅くなった時間の中で、センは、
「てめぇの中心を切り刻めるようになるまで、てめぇの命で鍛錬させてもらう。文句は言わせねぇ。言ってもいいが、聞いてやる気は毛頭ねぇ」
「貴様が私を削り切れるようになるよりも、かなり早い段階で、私が貴様を殺していることだろう」
常識的な言葉を口にする壊れたナグモ。
壊れたナグモは、まだ、センエースを理解していない。
センエースを理解できる者などいないので、それも仕方のない話。
遅くなった時間の中で、センは、より深く没頭する。
ほかの全部を忘れて、壊れたナグモを壊すことだけを考える修羅になる。
こうして、センエースお得意の時間が始まる。
圧縮された時間の中で、たんたんと、自己中に、自分を磨き続けるセン。
主人公補正なんかなくたって、
元来の『エゲつない根性』があれば、ナグモの攻撃に耐えることぐらいは余裕。
これまで、ずっと、そうやって生きてきた。
これまで、狂気の覚悟を叫び続けることができた理由は、
決して、『主人公補正』なんていう『甘え』のおかげなんかじゃない。
そんなもんに頼っているようなヤツに、
絶望と向き合う資格はない。
――なんて、そんなことを考えながら、
センは、必死になって、壊れたナグモと向き合い続ける。
時間の圧縮。
それ以外のワガママを、センは口にしない。
ステージさえ整えば、それでいい。
あとは、真摯に没頭するだけ。
『地味で地道な努力の追求』という、何よりも尊くて気高い山を一心不乱に登り続ける。
この辺は、『病的な高潔』の表の部分。
表と裏。
両方がそろって、はじめて、『今』という狂気を『象』にできる。
センエースの下地が完成。
『ワガママな高潔さ』という丁寧な矛盾が輝き始める。
膨れ上がった『ワガママな高潔さ』で、
存在値の差と向き合い続ける。
数字など、ただの飾りにすぎません。
偉い人にはそれがわからんのです。
と、そんなむちゃくちゃな戯言で世界を濁す。
――本当は、飾りなんかじゃない。
わかっている。
そんなことは十全に理解している。
『存在値の差』は超重要。
『根本の下地』を否定することは逃げと同じ。
だから、否定することはない。
否定してはいけない。
センエースは逃げない。
目の前の絶望と、真摯に向き合い続けるメンタルだけが誇り。
『それだけ』は何があっても、絶対になくしてはいけない器。
逆に言えば、その器さえなくさなければ、どうにかなる道筋。
そうやって、自分の中で、無意味な折り合いをつけながら、
センエースは、必死になって、自分自身と向き合っていく。
もはや、壊れたナグモは眼中になかった。
自分自身をどう積み重ねていくか。
それだけが、今のセンエースの中にある課題の全て。




