21話 悪くないレベルで文学的な裏。
21話 悪くないレベルで文学的な裏。
「……主役じゃなくたって、運命じゃなくたって、叫び続けるんだよ。世界で一番みっともない底意地を。その先に待っている何かを掴むために、俺は、とびっきりの今日を積む」
何がなんだかわからないままに、『ソレ』は、起こった。覚醒と呼ぶには、あまりにもみすぼらしい変化。あえて、『壊れ堕ちた』と呼びたくなるほどの、禍々しい変貌。
『壊れて何が悪い』と、渾身の逆ギレをかましていく。
センエースの中で蠢く『おどろおどろしさ』が、
『すべて』を飲み込んで一つになろうと、さらにキモくうねりだす。
センエースのパワハラに耐えきれなくなったのか、
センの中に刻まれている『絶対的主人公補正』が砕け散る。
『やっていられない』とばかりに、任務を放棄して爆散。
その砕けたカケラを、みすぼらしく、繋ぎ合わせて別の形にする。
――そうやってできたもの。
それが、
それこそが……
『病的な高潔』の『裏スペシャル』
――『人間失格』。
「ああ、それぐらいでいい。それぐらいがちょうどいい。悪くないレベルで文学的だしな……恥の多い人生をおくってきた俺にふさわしい」
なんて、とびっきりのファントムトークで世界をケムに巻いてから、
センは、大きく息を吸って、自分の中に産まれた穢れを抱きしめる。
『綺麗なだけの主役』は死んだ。
つぅか、もともと、そんなものは存在しねぇ。
彼はセンエース。
多分おそらく『悪』じゃないが、でも、だからって、けっして正義の味方じゃない。
悪だの正義だの、ごちゃごちゃうるせぇ連中を、意味不明なプライドだけでぶっ飛ばす。
それが、舞い散る閃光センエースの狂ったワガママ。
「爆竜閃拳」
拳に、ワガママをいっぱい乗せて、センエースは、壊れたナグモに突貫する。
火力にガン振りした重たい一撃。
センの攻撃なんぞ無意味――と、そう思っていた『壊れたナグモ』。
けれど、
「え?」
ズシンと、深く、重く、
センの拳は、壊れたナグモの深部へと響き渡った。
「……そ、そんなわけ……」
正直、ダメージはたいしたことなさそう。
壊れたナグモの生命力からすれば、まだまだゴミみたいな火力。
だから、痛みではなく、驚愕により、一歩、後ろに引いてしまう。
反射で、軽く距離をとってから、
壊れたナグモは、
「先ほどの……『心臓を抜き取られていた時』よりも……さらに、拳が重くなったな……ふむ……どういう理屈だ……?」
シンと、静かな視線で、センの全部をとらえる。
彼を理解しようと精神を集中させる。
そんな壊れたナグモに、
センは、
「理屈とかじゃねぇよ。みっともなく壊れただけだ。絶対的主人公補正とかいう、しょっぱいオモチャをぶっ壊して、そのハリボテの一番奥にあったゲロを引きずり出して、体にぬりたくっただけ……汚物にまみれて、無様にあがく……そういう終わっているキモさの方が、俺にはあっている。それだけの話」
――悪鬼羅刹は表裏一体。
スペシャルにもその概念は当てはまる。
その視点は、決して『一粒で二度おいしい』ではない。
あえて例えるなら、
『せっかく素材はおいしいのに、調味料で台無し』という感じ。
決して『表のスペシャルと、裏のスペシャル、二つ分の効果を得た、やったー』ではなかったりする。




