19話 絶対的主人公補正。
19話 絶対的主人公補正。
「俺が通したいのは、いつだって、俺のプライドだけ。ここで逃げるのも、自分が守りたい意地の一つも守れずに死ぬのも、俺にとっては、どっちも同じクソだってだけの話……俺は大した男じゃねぇが、しかし、見栄だけは一丁前でなぁ。たとえ、干からびるほど空腹でも楊枝を口にくわえていたい。たったそれだけの、実はとことん無様な話。そんだけぇ!!」
世界の根源には、『効率的な絶望のエネルギー』を『循環の中心にしている』くせに、『クズを嫌い、高潔なものを好む』という、まったく道理が通っていないメンヘラな性質がある。
だから『過剰な高潔さをとことん世界に示し続けた精神の異形種』は、当然、世界の根源に、強く愛される。
『世界の愛』は無上の奉仕となり、センエースの魂を支える器となる。
その器は、またの名を――『絶対的主人公補正』と呼ぶ。
その器は『主人公』という属性を持つ者が得る奇跡。
『運命』と共に咲き誇る花。
枯れてしまう可能性が非常に高い、脆い花。
『とてつもなく高い効果』には、限定条件やリスクがつきもの。
――それが、この世界全体の基本法則。
大地も、海も、星も、銀河も、
空気やそこに漂うチリボコリといった、生命体以外の物質も、
すべてが、主人公である彼に尽くそうとする。
その結果、壊れたナグモが、どれだけセンを殺そうとしても殺せなくなる。
希望の象徴。
命の奇跡。
ある意味で、友情パワー。
あったかい絆の力で、世界を照らす。
つまりは、『過保護な世界』の『包容力の精度』がためされるオンステージ。
――ズンッッ!!
と、重たい音が世界に響き渡る。
壊れたナグモが、センの腹部に与えた衝撃。
とてつもない重さの拳は、本来であれば、センエースの肉体を粉々に吹っ飛ばせるだけの力をもっていた。
けれど、センエースは砕けない。
世界がセンエースの生存を望む。
だから、センエースは終わらない。
彼の中にある『プラチナの概要』を、多少なりとも理解した『壊れたナグモ』は、
ニっと笑い、
「ここまでくると、さすがに面白くなってきた。本当に何をしても死なないのか、実験してやろう」
そう言ってから、ひたすらに、センをボコボコにしていく。
その中で、『壊れたナグモ』は気づく。
「感じるぞ、異常者。お前の、その『奇妙な不死身』は、決して『完全無欠で無限の不死身』じゃない。貴様の器はどんどん削れてきている。通常なら死ぬであろうダメージを受けるたびに、貴様の中の『何か』が穢れていっている。『心臓の穢れ』とはまた違う別の歪みが産まれてきている。呪いに呪いを積み重ね、貴様は、いずれ、『自分の中の狂気』に飲み込まれるだろう。そして、それは――あるいは、『世界を飲み干さんばかりの闇』になるやも。くくく……面白い。もしかしたら、この私すら、飲み込まれてしまうかもしれんが、しかし、それはそれで面白いやもしれん。ハイエンドの狂気をふりまいてくれるのであれば、媒体は何でも構わない」
そう言いながらも、一応、センを圧殺しようとする、壊れたナグモ。
壊れるなら壊れるでも構わない、という視点のもと、
とにかく全力で、センエースの死を追い求める。




