13話 人間じゃない。
13話 人間じゃない。
「……プラ……チナ…………スペシャ……ル?」
グンっと、まるで、雑な心臓マッサージでも受けたように、センエースの肉体が、一度、ビクンと跳ねた。
その勢いを利用して、バっと、立ち上がる。まるで、出来の悪いマリオネット。
まるで、センエースの腰についている『見えない糸』を、誰かが引っ張り上げたみたいだった。
「……あー……んー……鬱陶しいな……誰だよ……俺を引っ張ってんの……」
ぶつぶつと、誰にも聞こえない声量で、そうつぶやいてから、
首をギゴゴっと歪に鳴らして、
「ダルい……しんどい……息が出来てねぇ……血がまわってねぇ……これで、なんで死んでねぇ……きもちわりぃ……なんだ、これ……きっしょいなぁ……」
頭がまわっていない。
脳が機能していない。
口にだしているのは、ただの反射。
思考を介さない、名状しがたい『ただの愚痴』のようなもの。
「心臓が必要だ……心臓がないのは……問題だろ……常識的に考えて……」
その愚痴を最後にして、
センは顔をあげた。
そしてロックオン。
視界の中心には、色違いのナグモナオ。
ほぼ無意識・無自覚・無感覚のまま、
「……閃……」
色違いナグモの顔面めがけて、
――センは、
「……拳……っ」
拳に自分の命を乗せて、
渾身の必殺技を叩き込んだ。
それは、人間の常識的な動きを超えた速攻だった。
だから、
「うぶぐっ!」
センの拳は、
色違いナグモの頬骨をしっかりと砕いた。
そんな、信じられない現象を前にした色違いナグモは、
目を見開いて、
「はぁああああああ?!」
と、意味不明な現状に驚愕するばかり。
痛みなんかよりも、驚きの方がまさっている。
「そんな脆い肉体で! 心臓も抜き取られた状態で! 『なぜまだ死んでいないのか不明というほぼゾンビ状態』で! なんだ、その力ぁあああ! はっ、はぁああああああああ?!」
色違いナグモの視点で言うと、
センは既に死んでいるのだ。
心臓を抜き取ったんだから当然の話。
だが、そんな常識など、センエースには通じない。
「……心臓を抜き取られたなら……肝臓を代用すればいいじゃない……一文字違いだし、場所も近いから……一時的な応急処置としてなら……いけんだろ……」
「いけてたまるかぁあああ!」
そう叫びながら、
色違いナグモは、センエースの頭を吹き飛ばそうと拳をくりだした。
彼我の存在値の差を考えれば、
その拳が届かないなんてことは、絶対にありえないのだが、
「……見える……ぞ……俺にも……拳が見える……」
などと、小粋にテンプレをかましながら、
スルリと、色違いナグモの拳を回避する。
「なんで避けられるぅううう! どうなっているんだ、貴様ぁああ!」
もはや、色違いナグモからすれば、
センエースと言う存在は、怪奇現象以外の何物でもなかった。
常識が一切通じない。
一般人視点でのオバケのような存在。
ちゃんとした、普通のホラー。
ゆえに、純粋無垢な恐怖心が、
色違いナグモの中で膨れ上がる。
「お前はもう死んでいる! なのに、なぜ、生きている?! いや、生きているのも、そうだが、攻撃力も回避力も、どういうことだ!」




