12話 瞬く何か。
12話 瞬く何か。
「……エルメスっ! 私だ! 私の命令だ! くるんだ! 私はここにいる! なぜだ! なぜこない!」
なにやら必死になって、ずっと、エルメスを呼び続けている。
その間、センがいくら呼びかけても完全にシカト。
「私はここにいる! 私が貴様の所有者だ!」
そんな無意味な叫びを数十秒ほど繰り返したところで、
「……ダメだ……完全に途切れている……何者かに奪われたのか……それとも、消失した? ……いや、消失はありえない……エルメスは、『ムザキ』の因子が組み込まれている携帯ドラゴン……世界が存続している限り、絶対に消滅しない……」
ぶつぶつと、何かをつぶやきだす。
と、そこで、何かに気づいたような顔で、バっと顎をあげて、
「っっ!! あるっ……感じるぞ……っ……かなり小さいが……ある……どこに……どこだ……近い……っ」
きょろきょろとあたりをうかがう、色違いのナグモナオ。
そして、その視線は、センをロックオンした。
「貴様が? ……いや……違う……本体ではない……目を凝らさなければ見えない程度の、極小フラグメントをもっているだけ……それでも、無意味ではないか……最悪、本体が消失していたとしても、フラグメントさえ残っていれば、いつかは再生させることも可能……」
そう言いながら、
色違いのナグモナオは、センの目の前まで歩いてきて、
「なぜ、貴様のようなゴミの奥に、エルメスがあるのか分からないが……とにかく、返してもらうぞ。それは、私の携帯ドラゴンだ。正当なる銀河の支配者……その一等賞である私の所有物。貴様のようなカスの手にあっていいものでは決してないのだ」
などと言いながら、
色違いのナグモナオは、センの心臓に右腕を突っ込んだ。
「げはぁっ!」
まったく反応できず、
大量に吐血するセン。
意識を失いかけているセンを蹴り飛ばして、
手の中におさめた『センの心臓(引きずり出したフラグメントの一部)』を見つめながら、
色違いナグモは、
「……ふはは! よし、回収……ん?」
喜んだのも束の間、
センから奪い取った心臓は、
――『ドン引きせざるをえないほど』に穢れていた。
「な、なんだ、このおぞましい腐り方は……まるで、ウジでもわいているような有様……」
『夏場に、ずっと外で放置していた生魚』――ぐらいの勢いで腐り切っていた。
もともとの輝きはくすみ、ほとんど、毒のかたまりみたいになっている。
「き、気持ちが悪い……何をどうしたら、ここまで歪む……」
と、ドン引きしている色違いナグモ。
そんな彼女の視界の外で、
あおむけでブっ倒れているセンは、
「あ……ぁ……ああ……」
白目をむいて、血を吐いて、気絶寸前。
そんな状態の奥で、
――『瞬く何か』があった。
極限状態の臨界点。
純粋な死を前にして、
センエースの奥にしまい込まれていた一部がわめきだす。
渇いた唇がわずかに動く。
「……プラ……チナ……」
誰にも聞こえない程度の声量。
ほんのわずかな振動。
「……スペシャ……ル?」
グンっと、まるで、雑な心臓マッサージでも受けたように、
センエースの肉体が、一度、ビクンと跳ねた。
その勢いを利用して、バっと、立ち上がる。
まるで、出来の悪いマリオネット。
まるで、センエースの腰についている『見えない糸』を、誰かが引っ張り上げたみたいだった。




