11話 色違いのナグモナオ。
11話 色違いのナグモナオ。
ギリギリのところで間に合わなかった。命取りになってしまった『コンマ数秒の遅れ』――センの視界の中で、ナグモナオの生気が溶けていく。
(――っっ!!!)
これまでに受けたどんなダメージよりも、『救えなかった』というダメージに痛みを感じている様子の舞い散る閃光。命の王にとって、これほどの痛みは他にない。
――絶望感にひたるセンの視線の先で、
ナグモの首を食いちぎった『グール(首)』は、
「ヒャッハアアアアアアアアアアアッ!」
と、恍惚の叫び声をあげた。
「こいつは、想像以上にデカい贄だぁああああ! 信じられなぁあああい! ここまでの器だったのか! 召喚など必要ない! 私が! この私が、アウターゴッドになれる器! はははははははははっ! ああ、たかまる、たかまる、たかまるぅうううう! くる、くる、くるぅううううう!」
完全にラリった顔で愉悦を叫ぶ。
その果てに、グールの首がギュンギュンと、高まっていくような音と光を発する。
その光は、一瞬、カっと大きな光を放って、
そして、
「ぷっはぁああああああっ!!」
深い水の底から這いあがってきたように、
深く、深く、息を吸い込んで灰にぶちこんでいく何か。
その『何か』の見た目は、『色違いのナグモナオ』だった。
グールの要素は完全になくなっていて、
外見だけでみれば、『グール』が『ナグモナオを奪った』というより、
『ナグモナオ』が『グールを奪った』ようにしか見えない仕上がり。
――その、色違いのナグモナオは、
何度か深呼吸をしてから、
「くく……ははは……ははははははははっ!」
大声で、高笑いを決め込んでから、
天に手を向けて、
「こいよぉ! エルメスぅうう!」
と、叫んだ。
その発言に対し、センは、
(……エルメス? ……それは……田中の携帯ドラゴンの名前……)
絶望の中に浮かんだ疑問。
今のセンは理解できない揺らぎの中にいた。
自分はナグモナオを救えなかったのか。
それとも、まだ、チャンスは残っているのか。
てか、なんで、エルメス?
色々な疑問が頭の中で沸き上がって止まらない。
そんなセンの視線の先で、
色違いのナグモナオは、首をかしげて、
「?! なぜ、こない?! どういうことだ?! 使えるはずだろう?!」
などと、意味不明なことを口走っている。
「……わけがわからない……なんでだ……この体は、『エルメスの所有者』で間違いないはず……どうして……何かがズレている? わからない……わからない……」
頭を抱えて悩みだす色違いのナグモナオ。
そんな『彼女』に、センは、
「……おい。お前は、どっちだ? ナグモナオの方か? それともグールの方か?」
『ハシャいだ冗談』を口にする余裕はなかった。
とにかく、まっすぐに、最短距離で、事実を求めていくセン。
そんなセンの言葉などシカトして、
色違いのナグモナオは、
「……エルメスっ! 私だ! 私の命令だ! くるんだ! 私はここにいる! なぜだ! なぜこない!」
なにやら必死になって、ずっと、エルメスを呼び続けている。
その間、センがいくら呼びかけても完全にシカト。




