10話 イタチのさいごっぺ。
10話 イタチのさいごっぺ。
天才型グールの技巧派な省エネムーブに対しセンは、
「そんな、お行儀のいい攻撃で、俺を処理できると本気で思ったか?」
センが求めたのは、とことんまでつきつめた自爆特攻。
肉をみじん切りにさせてでも、絶対に骨を両断してやるという覚悟。
『頸椎や肋骨にいくらダメージが残ろうとかまわない』という、頭が悪すぎる全速前進。
バキリ、グギリと、大事な箇所に『損傷が生じている音』が脳内に響き渡る。
普通なら二の足をふまざるをえない『人体からのレッドシグナル』なのだが、しかし、センは、そのサイレンを、まるで、『ユニコーンのBGM』かのように、『己を奮い立たせる狂走曲』のように扱っていく。
「だらぁああああああああああああっっ!!」
極限状態で叫んだ覚悟が、
そのまま、センの血肉となっていく。
遺伝子の最奥に組み込まれている原始的な闘争本能。
平和ボケしている日本人の魂の奥にも、確かに刻まれている『野生』の猛り。
ようするには、リミッターの解除。
先ほどの、ナグモを助けるときのような『一瞬の解放』ではなく、今のセンを縛りつけている『常識的な鎖』を、ガッツリと、キッチリ、バッキバキに砕いていく。
これは、覚醒ではない。
ただの、反射。
純粋な命が『もっと輝け』と、センにささやく。
「ギャギィィッッ!」
想定外の煌めきを前にして、
天才型グールの反応がコンマ数秒遅れてしまった。
無意識のうちに、『このぐらいだろう』とはかっていたセンの底。
『このラインは超えてこないはず』と予想していた範疇を大幅に越えられてしまったことで、対応がキッチリと遅れてしまう。
グンッッ!
と、命の奥に踏み込まれてしまい、
結果として、
ザンッッ!
――グールの首がサクっと飛んだ。
「――ギギッ……っ」
何が起こったのか、グールは理解できなかった。
首が飛んでから数秒後、グールは、ようやく自分の首が飛んでいることに気づく。
ありえない自分の状況を理解すると同時、
グールは、
「ッギャグギャグギャグギャガギャギャガギャアアアアっ!」
言葉にならない悲鳴を上げる。
混乱。
パニック。
『自分が、あんな雑魚に殺されるわけがない』という強い自負が、
グールの心から理性を奪い取った。
ただ、そんな中、
――死に際の一瞬のはざまで、
グールの意識の最奥に、
『そのまま死ぬな。役目を果たせ』
語り掛けてくる声があった。
そのメッセージを正しく受け止めたわけではない。
認識上では、グールは、その声を認知していない。
しかし、意識の最奥にささやかれたことで、
グールの意識に変革が起こった。
『せめて、何か……』という方向性へと切り替わった。
「ッッ! ギギギギギギギャアアアアッ!」
真っ赤なオーラに包まれる、グールの首。
奇声をあげながら、
首だけになったグールは、
『最後の抵抗』とばかりに、
絶死で底上げしたオーラと魔力を推進力にして、
ナグモナオに向かってとびかかった。
命の全部を使った最後の一手。
どうにか、ナグモナオの首にかみつくことに成功。
そのまま、バギリッっとくいちぎる。
この間、ほんのコンマ数秒。
もちろん、センは、それを黙って見ていたわけではない。
必死になって、グールの強襲からナグモを守ろうとしていたのだが、
(やべぇっ! 間に合わっ――)
リミッターを外して、限界を超えた速度で、
ナグモナオの盾になろうとしたのだが、
しかし、
ギリギリのところで間に合わなかった。
命取りになってしまった『コンマ数秒の遅れ』――
センの視界の中で、ナグモナオの生気が溶けていく。
(――っっ!!!)
『ここまでに受けてきたどんなダメージ』よりも、
『救えなかった』というダメージに痛みを感じている様子の舞い散る閃光。
命の王にとって、これほどの痛みは他にない。




