1話 むしろ、いない方が足を引っ張らない分プラスまである。
1話 むしろ、いない方が足を引っ張らない分プラスまである。
家に帰ったセンは、自室のベッドにあおむけで寝転がって、天井を見つめていた。
「……んー……」
『いくつかの感情論』が湧いて出ては、理性の前で、散り散りに消えていく。
そして、完膚なきまで粉々になった感情論が、『カミカゼ〇タックで吹っ飛ばされた魔〇ブウ』みたいに、また結集して、形を経て、わめき散らす。
そんなことを頭の中で散々繰り返した果てに、センは、
「さて……どうする?」
と、何度目か分からない自問自答にふける。
ほとんど一生答えに届かないセルフ詰問。
「田中がいるなら、ぶっちゃけ、俺なんかいらんだろう。あいつが、ガチンコでヒーローをやってくれるのであれば、それで、何もかもが、オールオッケーなのが現実。あいつと比べたら、俺なんかハナクソ以下。いてもいなくてもどっちでもいい……いや、むしろ、いない方が足を引っ張らない分プラスまである」
『頑張らなくていい正式な理由』の前に立つと、人の体は動かなくなるもの。
センの体は、まるでベッドに張り付いているみたいに、ピクリとも動かない。
「もう、マジであいつに任せてしまおうぜ。あいつが言っていた通り、この世界の主役は、確実にあいつだ。まだ磨き方が足りないから、戦闘力に不安が残るが、しかし、あいつなら、その辺の問題も、たぶん、秒でどうにかしてしまうんだろう。『アホで無能で使えない俺』が『ダラダラと積んできた何百億年』なんか、鼻で笑いながら、『俺が地味にコツコツ積み上げてきた富士山の横』に、鼻歌交じりの光速で、『見上げるのもしんどいオリンポス山』をぶち立ててしまうんだろう。そんな『正式な主人公』が華々しく表に立っている今、クソの役にも立たない『凡才の俺』が裏で何をしようってんだ。表の実力者が完璧なら、影の実力者なんかいらないんだ。天才の足を引っ張ることしかできないなら、黙って寝ていた方がいい。その方が世界のためだ。ああ、間違いない。いらないんだよ、俺なんて」
グチグチ、グチグチと、自己卑下が止まらないセンエース。
拗ね散らかしている男子高校生というのは見ていられない。
『人』という『脆弱さを煮詰めた生き物』は、『頑張らなくてもいい理由』を探している時、脳がとんでもない速度で高速回転する。
その回転速度を、『生産性を上げるため』に使えたら、世界ってのは、きっと、よりよいものになるのだろうけれど、往々にして、人の脳は『やらなくていい理由を探すとき』にしか、その高速回転を維持することができない。
哀しい生き物である。
終わっている生き物と言ってもいい。
「ああ、楽だ……しんどいことを、主役に全部任せて寝ていられる、この時間の、なんと幸せなことよ。こんなに嬉しいことはない。……俺は、ずっと、こういう時間を求めてきた。しんどい苦悩にまみれて、朝から晩まで、毎日毎日、修行にあけくれる日々なんて、そんなもん、頭おかしいサ〇ヤ人に任せておけばいい。俺なんか、しょせん、どこにでもいる、しょぼい第一アルファ人でしかないんだから、主役の邪魔だけはしないよう、余計なことは何もせず、静かに、豊かに、自由に、まともな人生を謳歌していればいいんだ」




