84話 キモすぎてゲロはきそう。
84話 キモすぎてゲロはきそう。
「これほどの短時間で、私が磨き上げてきた全てを見切り、理解し、そして、より高次の概念として、自分の器に透写してしまったか……」
哀しい笑顔でドン引きしているアクバート。
田中シャインピースは、格が違った。
観客も、田中の方が優勢であることを理解し、
田中に対する絶賛の声が増えてきた。
田中が、実際のところ、どれだけ凄いのか、それを正確に理解できる者はいないが、しかし、アクバートを圧倒しているため、『田中が凄すぎる』ということは誰でも理解できた。
とにかく、異常に凄すぎる田中に沸く観客。
ニューヒーローの誕生に熱狂するのは人のサガ。
シャインピースガールズは勿論のこと、他の面々も、田中のすさまじさに酔いしれていく。
そんな中、たった一人、
田中の活躍を容認できない男が、
「アクバートぉおお! 諦めるんじゃねぇ! お前はまだ飛べる! お前の武の道は、お前の夢は、そんなところでおわらねぇ!! そんな、ただ天才だってだけのカス野郎に負ける道理なんて、あっていいわけがないんだ! 目覚めろ! 覚醒するんだ! お前の中にある全部を沸騰させろ! 先天的な天才性をふりかざしているだけの頭でっかち野郎は、ワンパンで沈めたあと、コンクリ漬けにして、実際に、海へと沈めてやるんだ! ああ、違う! そうじゃない! なぜ、諦めるんだ! 諦めたらそこで試合終了だって、白い悪魔も言っていただろう! あああ! クソ! なんでだ! なんで、諦める! 今までの自分の努力を否定する気か! アクバートぉおお! 俺の声が聞こえんのかぁああ! 神の王である俺の声がぁああ! あ、これ、聞こえてねぇなぁああ! まわり、うるさすぎるからなぁああ! ちょっと、女子ども、お前ら、黙れぇええ! きゃーきゃー、うるせぇえ! 俺の声が、完全にかき消されてんじゃねぇか! ちょっ、マジで……うるせぇええ!」
腹の底から声を出しているのだが、数千人という異常な規模に達しているシャインピースガールズの大合唱大歓声をブチ破るだけの声量には届かない。
センは、諦めることなく、アクバートに、『田中をブチ殺せ』と命令&激を飛ばすのだが、しかし、すべての声がかき消される。
センの声が、ギリギリ届いていた、周囲のシャインピースガールズたちから、
『あいつ、ほんと、ヤバいんだけど』
『どこまで終われば気がすむの?』
『キモすぎて、ゲロ吐きそう』
『自分の無能をタナにあげて田中の成功を嫉む奴が多くて困る』
と、素直な感想がこぼれおちる。
――5分が過ぎたころ、
田中は、アクバートの全てを理解していた。
もはや、アクバートの拳は、田中にカスることもありえない。
予備動作に入る前の、わずかな粒子の振動から、未来の大半を予測してしまう化け物に、何をどうすればいいのかなど、人間ごときに分かる範疇ではないのだ。
それでも、アクバートは、必死になって抗ってみた。
無駄だと分かっていても、それでも頑張ってみるのが特待生の特質。
彼らは、諦めない。
なぜ、そこまでまっすぐな努力を積めるのか分からないが、
とにかく、彼らは、とことん純粋な研鑽と共にある。




