83話 田中シャインピースは、同じ人間じゃない。
83話 田中シャインピースは、同じ人間じゃない。
「……『苦難の永遠』を無限に繰り返しても……おそらく、私は、お前の影すら踏めない……」
アクバートは、天才をたくさん見てきた。
時空桐作学園には、自分に匹敵する天才や、自分を超える天才がたくさんいた。
だから、『自分は一等賞ではないから、もっと頑張らないといけない』と純粋な努力に邁進することもできた。
その結果、アクバートは、さらなる大きな力を得た。
『努力家の天才』が届いた『極致』は、常人を遥か後方に置き去りにしているが、
――そんな努力家の天才を……田中シャインピースは、えげつないほどの速度で置き去りにしている。
アクバートは、哀しい笑顔を浮かべて、
「これほどの短時間で、私が磨き上げてきた全てを見切り、理解し、そして、より高次の概念として、自分の器に透写してしまったか……」
カンツがいたことで、アクバートは、自分よりも天才が存在するということを知った。
おかげで、自分は一等賞ではないと知っていた。
挫折はすでに経験している。
挫折は、アクバートを、一つ上の次元に押し上げてくれた。
『それでも、闘い続けるのだ』という、己の中にある勇気と向き合った。
『カンツを超えてやる。足りない才能を狂気で補って、あの怪物を超えてやるのだ』と奮起した。
正直、カンツを超えられる気はしなかった。
だが、最終結論の予想など、道の半ばでは、なんの意味もないもの。
アクバートは『死ぬ気で頑張ろう』という『強い決意』をこめて、世界をにらみつけた。
それが出来るか否かの方が、最終結論の是非なんかよりも、よっぽど意味がある。
――アクバートは、命の業と向き合うことができる豪傑。
心の強さにおいても、一般人を置き去りにしている超人。
だけれど、『今回の挫折』で、これまでと『同じ覚悟』を胸に抱くことはできなかった。
武を交えたことで届いた『高次の気づき』は、『達観』の次元で、アクバートの心を砕いた。
……別に、『今後はもう努力をやめる』とか『もう闘わん』とか、そういう話ではない。
『武の道から引退する』とか、『研鑽に対して虚無感を感じる』とか、
そういう、『命の弱さ』を露呈させるような無様は、さすがにありえない。
アクバートは、そこまで愚かではない。
もっと言えば、そこまで、『高み』に達していない。
……もはや、アクバートは、田中シャインピースを、別枠の存在として見始めていた。
スパコンに『計算速度で負けたから』と言って本気で悔しがる人間がいるだろうか?
いや、もちろん、そういう『酔狂なヤバいヤツ』も、探せばいるのかもしれないが、
しかし、アクバートは、そういう特殊な思考の持ち主ではない。
『狂気の努力ができるから』と言って異常者ではない。
『異常者になりえた種』を有している、ちょっとダーティで危険な男ではあるけれど、サイコパスさんではないのだ。
――だから、スパコンに計算速度で負けたことを悔しがったりしない。
ただ、『これはヤバいな……まあ、人間では勝てんな』と呆れるぐらいが関の山。




