81話 田中アンチが止まらない。
81話 田中アンチが止まらない。
「カンツ……お前、携帯ドラゴンの装備補正を切った状態で走っとるってホンマ?」
「がはははは! 当然だ! 装備補正など受けていたら、鍛錬にならんからなぁ! パワードスーツを着用して筋トレをしたところで肉体に変革など起こるはずがない。がはははははは!」
携帯ドラゴンは装備品である。
トランスフォームしなくとも、契約しているだけで、ステータスがかなり底上げされる。
「……ガチの素の状態やのに、こんだけ走って、息切れ一つしとらんのかい……人間ちゃうな、ホンマに……」
毎日、アホみたいに走りこんでいる運動部のエース級たちが、みな、泡吹いて倒れてしまったほどのペースで走り続けていながら、しかし、カンツは、まだ、汗の一つもかいていなかった。
その様を見て、ここまで唯一残っている天才田中さんは、普通にドン引いている。
そんな中で、カンツは、チラと、後方を確認し、
「全員脱落か……まったく情けない。誰か一人ぐらい、ついてきてもよさそうなものだが」
「いや、無理やろ。……あと、一応、ワシが残っとるんやけど、ワシの姿、見えとる?」
「携帯ドラゴンを持つお前は別枠だ。ワシは今、一般人の話をしている」
「ワシも、一応、一般人なんやけどなぁ……」
ボソっと、そうつぶやいてから、
「てか、これ、いつまで走るつもり?」
「予定としては1時間のつもりだったんだが、もう意味はないし、はやめに切り上げることにしよう」
「この速度で1時間走るつもりやったんかい。それで、誰かついてくると本気で思っとったん?」
「そのぐらいの根性があるやつでなければ、神話生物の相手は出来ない」
「ちなみに言うとくけど、ワシには、そんな根性ないからのう」
★
田中以外が脱落してしまったことで、
『カンツについていこう、鉄人マラソン大会』は終了した。
結局、10分前後で終了しているので、内容的にもタイム的にも、マラソンではなく持久走だったが、そんな『どうでもいいこと』につっこむ余裕のあるやつはいない。
みな、ダークホース&ニューヒーローの誕生に沸いていた。
『田中シャインピース』という、キラキラネームがエグいだけのモブ野郎が、カンツの『拷問のようなマラソン大会』で生き残ったという事実を前にして、動揺と称賛の声が止まらない。
あまりの異常事態。
一気に有名人になる田中。
目ざとい女子連中が、すでに、田中をロックオンしている。
特待生たちは、全員が、謎に高貴すぎるため、近づくこともままならないが、しかし、田中なら、良い感じにモブオーラも出ているため、近づきやすい――みたいな流れもあって、田中は、一気に、ハイスペックモテ男へと華麗に転身。
女子に囲まれて、『体力、すごいねー』と褒められている田中。
その様子を見ながら、
序盤の30秒で脱落した『田中アンチのSさん』は、血走った目で、
「調子に乗るなよ、田中! お前は、たまたま、携帯ドラゴンと契約できただけのクソ陰キャにすぎない! お前と俺は同じだ! 力をふりかざしてエゴを叫んでいるだけ! だから、貴様は、やはり……俺にっ……俺に殺されるべきなんだぁああ!」
何やら、意味不明なヤバいことを叫んでいるSさんに対し、
シャインピースガールズたちは、
『やばくない、あれ』
『終わってるんだけど』
『キモすぎて無理』
『男のジェラシーは見苦しいぜ』
と、素直な感想を口にする。




