72話 2あるかないかぐらいのゴミ。
72話 2あるかないかぐらいのゴミ。
田中は、ウムルを見ていない。いや、見てはいる。武の手本の一つにしようと観察はしている。しかし、それは、敵として認識しているのではなく、『実験動物の観察』でしかない。
『ああ、なるほど。こう動くといいのか。勉強になるなぁ』
それ以上でも、それ以下でもない視点。
そんな目を向けられたことで、ウムルの怒りが、さらに高みへと至る。
もはや、どんなブロント語でも表すことは出来ない極致。
「ぬがぁあああああああっ!」
暴走していく。
怒りが濃縮されている。
それでも、田中は、観察の目を切らない。
その不愉快な視線が矯正されることはない。
田中は、『命の壊し方』を勉強しているかたわらで、ウムルのオーラや魔力の波長に対する研究も同時並行で進めていた。
次第に、田中の『波長の合わせ方』が研ぎ澄まされていく。
最初の方は、ウムルの拳を浴びることに、強風程度の刺激があったのだが、今となっては、そよ風を下回っている。
時間経過とともに、どんどん、磨き上げられていく。
実戦の中で、くりかえし続けたことで血肉化されていく。
ウムルと対峙する時間の中で、飽きるほどウムルを理解していく。
武という対話の中で、田中だけが、一方的にウムルを丸裸にしていく。
「だいたいわかった。こんな感じかな」
田中は、ボソっとそう言ってから、
踏み込み足の角度に注意しながら、
グンっと、力強く、ウムルの懐に飛び込んで、
「うらぁあっ!!」
声を出すことで腹圧を高める。
エネルギー効率を上げていく。
ひじの角度、拳の角度、肩と腰の螺旋。
細かな挙動に注意力を払うことで、
先ほどのレバーブローとは質が異なる一撃を叩き込むことができた。
『根源の武』が、『0に近いゴミ』から『2あるかないかぐらいのゴミ』にかわった。
この短時間では、その程度の強化が関の山。
しかし、モード・ソンキーによる魔力とオーラにお恩恵を受けている今、『根源の武』がほんの少し上昇するだけでも、飛躍的なダメージアップにつながる。
「どぅぐぇああああああっ!!」
先ほどとは比べ物にならない拳を腹部で受け止めたウムル。
『信じられない』という想いから頭が一瞬真っ白になった。
正直、まだ、ダメージ量的には、たいしたことがない。
ただ、上昇率が理解できない領域なので当然パニック。
「な、なんだ……どうなっている……なんだ、貴様……どういう……」
先ほどまでは、わけのわからない力を駆るゴミだったが、
今となっては、ウムルの目にうつる田中は、
『理解できない化け物』にまで昇華されていた。
――今、この段階だと、まだ、田中は、ウムルを殺せない。
だが、この成長率を考えると、
(このまま戦っていたら……いつか、殺されるんじゃ……)
ゾっとした。
クラっとした。
そんな自分に対する怒りで奥歯をかみしめる。
(この私が……ウムル=ラトが……GOOの最果てに至った神格が……こんな、ヒョロガリ一匹に、なんで、こんな屈辱を……)
一瞬だけ、逃げ出そうかとも考えたのだが、
しかし『無駄に高い誇り』が、ウムルをこの場にとどめさせた。
それに、
(まだギリギリ脆弱な今のうちに殺しておかないと、手が付けられなくなるやも……っ)




