70話 輝き始める、銀の流星。
70話 輝き始める、銀の流星。
ウムルは拳に魂を込めた。これまでの自分の全部を、その一撃に込めようとした。
「ずぁああああああああっっ!」
膨れ上がった魔力とオーラが激しくまたたく。全力の一撃で、田中の顔面を砕こうとしたウムル。
信じられないほどの豪速。
当然だが、避けることなど出来ない。
反撃の拳を顔面にくらった田中。
数値差を考えると、このまま跡形もなく、田中の体がバラバラになって終わり……のはずなのだが、しかし、防御面に関しては、天才性が既に発動しているので、
「……今の攻撃は、普通に痛かったで。けっこう、しっかりと波長を合わせとるのに、バリアを貫通してくるとは……やるやないか。褒めたるよ、ちょっとだけ」
ウムルの攻撃は、まったくの無意味ではなかったが、
しかし、欠損に届くほどではなかった。
殴られて、少しヒリヒリする。
それが限界だった。
「くそがぁああああああああああああああああ! こ、こんなにも、完璧に波長を合わせるなんてことが、なんで出来る! どうなっているんだ、貴様ぁあああああああ!」
極限まで頑張って、必死になって、ありとあらゆる努力を積んで、どうにか100メートルのタイムで9秒を切った天才ウムルの横を、7秒台で走り去っていく超天才田中。
怒りとやるせなさの中で、ウムルは、田中の全てをぶち壊そうと連打・連打・連打。
そんな、ウムルの猛攻を受けながら、田中は、
(……ただ魔力任せにして殴るだけやったらアカンな……)
と、冷静に、『武』について考えていた。
今も、顔面や腹部を、ボコボコに殴られているのだが、
しかし、『ちょっとした強風を浴びて鬱陶しい。目がちょっと開け辛い』という程度の感想しか抱いていない。
(まずは、『殴る』という行為そのものを分析。―――前提。骨盤を動かす筋肉や靭帯は存在しない。腰椎を支える仙骨は脊柱の底部。―――上からの力も下からの力も骨盤や仙骨を通過する。作用している運動力学的エネルギーは体軸回旋。―――螺旋のエネルギーが骨盤の回旋に連動。骨盤が、流動的なエネルギーを制御して、身体バランスを調整しとる。つまり、実践的インファイトにおいて重要なのは平均角速度のバランス。ようするに、連打の中に混ぜた渾身の方が、火力が増す。―――武の根源にあるのは流水。突き詰めれば流星。―――結論、ワシは、自分の体を知らなさすぎる)
田中の頭の中が、『モノを考える』という『限定的な領域』で一杯になる。
殴り合い・殺し合いをしているはずなのに、
まるで、『そういう実験』をしているかのような顔つき。
顕微鏡をのぞいているみたいな顔で、ウムルの武を観察する田中。
心中だけで言えば、昼下がりのコーヒーブレイクとさほど変わらない穏やかさ。
(魔力とオーラは、ブースターにすぎん……足し算ではなく、掛け算としての役割を果たしてくれるんは、ごっつありがたいし、ほぼチートやと思うけど、『元』の数値が0や1やったら、なんぼかけてもたいした数字にはならん。武の基礎を徹底して、根本のエネルギー伝導率を上げていかんと、内包しとる魔力やオーラがなんぼ秀逸でも、大きなダメージにはなりえん)




