69話 文字通りの、彷徨(さまよ)う冒涜。
69話 文字通りの、彷徨う冒涜。
『あ、それいいね。ちょっとパクるね。あ、でも、今のままだと、ちょっと出来が悪いな。もっといい状態にさせてもらうよ』
田中から、そう言われたような気がしたウムル。
あまりの絶望で、気が狂いそうになるのも無理からぬ話。
「絶対に許さないぃいいいい!」
尖った怒りを原動力にして、ウムルは、田中を消滅させようと魔力を練り上げた。
『GOOの終着点』に届いた者の魔力はエゲつなく、
人の感性で理解できる限界を大幅に超えていく。
『コスモゾーンの法則』が頑張って抑え込まないと、地球はとっくの昔に塵になっていた。
破格のエネルギーがごうごうと暴走。
その様を見た田中は、
ニっと、笑って、
「ワシの奥にある『扉』が開いていくのを感じる。お前というコズミックホラーのおかげで、ワシの中で眠っとったもんがどんどん目覚めていく。……この絶望……いささか熱が足りんけど、次のステージに行くだけなら十分……さあ、はじめようか。狂ったショータイムを……」
そこで、田中は、背中をのけぞらす勢いで、天を仰いで、
「ヒィイロォオオッッッ!! 見参っっっ!!!」
絶望の前で叫んだ覚悟が形となって、田中の奥を照らす。
『選ばれた者』の『天賦』が、眩いばかりに煌めいていく。
『ヒーロー』という概念が収束していく。
整えられた希望の結晶。
未来を託された者の輝きは美しい。
「アルテマトランスフォーム・モード【ソンキー】!!」
宣言の直後、
田中の全身を覆っているドラゴンスーツが、ビキビキと音をたてて変形していく。
それは、美しさの粋を集めたような、闘神の姿。
悪魔のようにも見えたし、天使のようにも見えた。
『きらめくような神聖さ』を感じると同時に、『命に対する冒涜』のような『狭間の世界でさまようアンデッド性』も感じる。
奈落の銀と凍てつく黒の結晶。
果てしなく神々しい異形の一等星。
田中は、ウムルをにらみつけて、
「……『GOOの一等賞に、初期ステの携帯ドラゴンで勝利する』……こんなこと、普通は絶対にありえへん。……こんなこと、ワシ以外には絶対に出来ん。……つまり、これは、ワシにしかできん不可能」
グっと、腰を落として武を構える。
覚悟と意地が研ぎ澄まされていく。
限界まで、意志を磨き上げてから、田中は瞬発力に心を込めた。
一瞬で間をつめて、ウムルの腹部に、
ドゴォッッ!!
と、とびっきりのレバーブローを叩き込む。
魔法や武器を使う手も考えたが、しかし、気分の問題で、初手は、無策のインファイトに興じた。
それが『一番の有効打である』と考えたわけでは決してない。
どれだけ賢い頭をもっていたとしても、気分の衝動には敵わない。
たったそれだけの単純な話。
右脇腹に一撃を頂いたウムルは、
「そんなしょっぱい一撃で何がどうなるってぇええええええ?!」
まったくダメージになっていない。
ウムルの耐久力や生命力をナメてはいけない。
今の田中は、『今の自分』を、まったく扱いきれていない。
潜在能力が素晴らしいのは事実だが、『ソンキーモードに対応できるだけの下地』が、まだ目覚めていない。
ソフトは優秀なのだが、ハードがゴミすぎて処理できていない。
ウムルは拳に魂を込めた。
これまでの自分の全部を、その一撃に込めようとした。
「ずぁああああああああっっ!」
膨れ上がった魔力とオーラが激しくまたたく。
全力の一撃で、田中の顔面を砕こうとしたウムル。




