60話 ヒーローなんてないさ。ヒーローなんて嘘さ。ねぼけた人が見間違えたのさ。
60話 ヒーローなんてないさ。ヒーローなんて嘘さ。ねぼけた人が見間違えたのさ。
――『肉体的感受性』だけに絞って焦点をあてた場合、カンツは、いたって凡庸。
その辺の感性そのものは、そこらの一般人となんら変わらない。
ようするに、苦痛も絶望も、普通に感じる。
怖いとも、苦しいとも、普通に感じる。
だが、それを、『鋼の精神』と『底意地』だけで抑え込み、
どんな時でも、死ぬ気で『ヒーロー』を演じているのが、カンツという男。
『ヒーロー』とは仮面。
自我を殺す狂気のペルソナ。
ヒーローの称号を持つ者は、例外なく、道化の仮面をかぶっている。
『根っからのヒーロー』など存在しない。
そんなものは、存在するはずがない。
存在していいはずがない。
ヒーローの概念は、あまりにも、基本的知的生命体の枠から外れすぎている。
『真なる善など存在しない』のと同じ理屈。
ヒーローなんて存在しない。
そんなことは理解した上で――『それでも叫び続ける勇気』だけが、この世界にある、数少ない本物。
――カンツの中に、ソレはある。
どれだけ絶望的な状況下でも、絶対に笑ってみせると決めた覚悟。
その覚悟を前にして、ウムルは、
「大きいな、キチ〇イゴリラぁ! 貴様は強い! その強さがあれば、普通のGOOならば、死ぬしかないだろう! だが、私は殺せないぃい! 私の才覚と、私が積み上げてきた時間は、貴様の異常性を超えている! 誇らしいぞ! 貴様を超える器を持つ自分が、たまらなくぅうう!」
ハイになったウムルは、
さらに、加速していく。
カンツは、その猛攻に耐えていく。
『なぜ耐えられているのか』――それは、当人ふくめて、誰にも理解できない世界。
普通なら、とっくに死んでいるのだが、
しかし、カンツは、目をひん剥いて、
「その程度で、ワシを殺せるなどと、夢を見るなよ、クソ以下のバケモノ風情がぁああああああああああ! がははははははははははははははははぁあああ1」
気合いを叫ぶ。
喉を切って笑い続ける。
『無限の質量』と錯覚しそうになるほどの膨大な覇気。
別格。
特待生たちは、みな、飛びぬけた資質を持っているのだが、
そんな彼・彼女らが認める通り、やはり、カンツだけは飛びきりの別格。
カンツの根性を目の当たりにした特待生たちは、
みな、奥歯をかみしめて、カンツの勝利を切に願う。
言うまでもないが、まだ魔力が残っている者は、カンツの支援をしている。
支援魔法の使い過ぎで倒れこんでいる者もいる。
その程度の疲労で倒れている自分とカンツを比べて歯噛みしている者もいる。
前衛職の面々は、飛び出しそうになる自分を必死になって抑え込んでいる。
今、カンツとウムルの闘いの場に飛び込むのは、『カンツの足手まといになるだけだ』と理解できるだけの頭があるから動けないでいるが、本当なら、カンツと一緒に戦いたかった。
だが、できない。
レベルが違うから。
これまでの経験から、特待生たちは、カンツとの差を理解していたわけだが、
ウムルVSカンツの闘いを見たことで、より、深く、自分達のレベル不足を実感する。
ウムルとガチンコでやりあっているカンツを見ながら、
ヒッキは、ボソっと、
「情けないよ……カンツに任せるしかない自分が……これほどの極限状態で、何もできない自分が」




