59話 カンツ・ソーヨーシという凡人。
59話 カンツ・ソーヨーシという凡人。
「魔力のコントロールで、私の右に出る者は、ほぼいないぃいいい!」
自負を叫びながら、ウムルは、カンツの連射に自分の魔力を合わせていく。
自分の魔力と波長を合わせて、限りなくダメージ量を抑えることは不可能ではなかった。
字面では簡単に言っているが、これには、相当な技量を要する。
これが出来るのは、ありえないレベルの才能と、どでかい器を持つウムルぐらい。
カンツは、とんでもない化け物で、その才覚は紛れもなく世界最高峰クラス。
資質も根性もパーフェクトに近い。
ただ、唯一、まだ――経験が足りていない。
『億』や『兆』を積み重ねてきた敵が相手だと、器の大きさが足りない。
才能は、努力よりも上位の概念だが、
基本的に、『えげつない努力』は、才能を凌駕する。
「その豆鉄砲では、もはや、私の『自動回復量の半分』を削ることすら出来んぞ!」
膨大な生命力を持つ神格は『自動回復(自己治癒能力)』がハンパないことも多い。
1のダメージを永遠に与え続ければ、いつかは倒せる――そういう話ではないということ。
1のダメージを与えている間に1000回復されては永遠に殺せない。
カンツの猛攻は、さきほどまで、『ウムルの自動回復量を遥かに超えていた』のだが、しかし、解析されて、波長を合わされてしまった今、ダメージ量は、自動回復量分にも届いていない。
つまり、どういうことかといえば、
カンツには、ウムルを殺せる手がなくなった、ということ。
――ウムルは、
「どらぁあああ!!」
カンツに対して接近戦を挑む。
モルティギアンの『スコールのような弾幕』の中を、あえて、すべて受け止めながら、まっすぐに距離をつめて、カンツの腹部に、とびきりの拳を叩き込む。
「肉体強度が自慢なんだろ! なら、耐えてみろよぉお!」
叫びながら、ウムルは、莫大な魔力とオーラを詰め込んだ拳を、カンツの全身、あらゆる箇所に、何度も、何度も、叩き込んでいく。
おそろしいほど重たい一撃。
耐久力が低いヒッキあたりだと、一撃を受けるだけでも、体が爆散してしまうレベル。
ウムルは、間違いなく、GOOの最高格だった。
その火力は、本当に、別格。
そんな猛攻を受けながら、
それでも、カンツは、
「がはははははははは!」
と、大声で笑ってみせた。
楽しいから?
もちろん、違う。
楽しいことなど、現状、一つとしてない。
なんだったら、普段だって、別に楽しいことなど、ほとんどない。
ずっと、苦しい。
努力し続ける人生は苦しい。
正義に没頭する高潔な人生は、とにかくしんどい。
そして、カンツは、『苦悩を楽しめるM気質』を一切持ち合わせていない。
――『肉体的感受性』だけに絞って焦点をあてた場合、カンツは、いたって凡庸。
その辺の感性そのものは、そこらの一般人となんら変わらない。
ようするに、苦痛も絶望も、普通に感じる。
怖いとも、苦しいとも、普通に感じる。
だが、それを、『鋼の精神』と『底意地』だけで抑え込み、
どんな時でも、死ぬ気で『ヒーロー』を演じているのが、カンツという男。




