49話 それでも逃げたくないと思う理由。
49話 それでも逃げたくないと思う理由。
「信じられないな。そんな状況で、しかし、ずいぶんと、まだ、余裕がある様子」
そんな彼の発言に、センが、
「余裕なんかあるわけねぇだろ……必死に意地を通しているだけだ! これだけの意地を通せる生命体はそうそういないぞ! どうだ! 俺を部下にしてみないか! これほどの意地を通せるヤツは、何かしらに、きっと使える! というわけで、回復して、武器を与えてみないか?」
などと、べらべら語りだしたセン。
そんなセンの目をのぞきこみながら、ウムルは
「どういうことだ……なぜ、私に恐怖を抱かない? なぜ、死に怯えない? なぜ、そんな……まっすぐな目で、未来を見つめることができる? これから死ぬんだぞ? なぜ、貴様は絶望しない?」
「……根本、間違っているよ、お前。俺はずっと、ビビってるよ」
ギラギラした瞳。
その奥にある炎を決して絶やさずに、センは、
「怖くないわけでも、痛くないわけでもない。俺は、どこにでもいる平均的男子高校生だからな。ケガをしたら血が流れてしんどいし、化け物と対峙すれば泣きたくなるほど怖いさ」
本音を口にしてから、
(でも……それでも、逃げたくないと思うのはなんでだ……)
自問自答。
自分自身の行動に対して、
いつも、センは、疑問を抱いている。
自分が、なぜ、そんなことをしているのか。
なぜ、そんなにも無茶ができるのか。
ずっと、自分に対して疑問を抱いていて、
いつも、自分に色々と尋ねているのだけれど、
しかし、まともな答えが返ってきたことはない。
答えらしきものをファントムに並べて揃えることはできるのだけれど、
しかし、そこまでが限界で、それ以上を求めることは、いつも出来ないでいる。
自分の本当の気持ち。
そんなものを明確に理解できている人間が、この世に、いったい、何人いるのだろうか。
たぶん、それが出来ている人なんて、一人もいなくて、みんな、自分自身の感情に迷って、狂って、そして、どこかで、ハンパな折り合いみたいなものをつけているだけ。
(……俺の望み……ほしいものは……)
感情論に答えなんかなくて、
けど、答えを求めてしまうのが人のサガで、
……そんな、自己矛盾を山ほど抱えて、
それでも、生きていかなくちゃいけないのが人生で……
(……俺にとって、大事なものは……)
『なにもかも、全部が、結局のところは、神様のパラドクスでしかないんだ』と、理解するところがスタート。
つまりは、ゴールのないトライアスロンという地獄。
『答えのない世界で答える求める矛盾』という感情論上のワガママ。
そんな、みっともない鉄火場で、最後の最後まであがき続けたいという意味不明な欲望。
所詮は、欲望。
ただの、憧憬。
言葉遊びに恋焦がれているだけ。
それでもいいと思えるのが……
センエースの意地。
奥底に眠る、虚勢の下地。
「俺は使えますよぉ。だから、部下にしてくださいな。後ろにいる30体全員分よりもはるかに使える器だと断言させていただきます。だから、両手両足を回復してください。そして、武器をください。魔力とかオーラもわけていただければ幸い。ハッキリ言いますが、俺を使わないのはバカですよ。あんたはバカじゃないでしょう? むしろ、世界で最も賢いと言っても過言ではない、命の頂点におわす御方。そんな理性的な御方が、使えるコマを、ただ殺すなんてもったいないこと、するわけがないですよね? それとも、あなたは、使えるコマを自ら壊すバカですか? そんなバカなはずがないですよね? ね? ねぇ?」




