48話 かなり高度なSM。
48話 かなり高度なSM。
「お、俺の腕には、上位世界100個以上の価値がある可能性がなくもない。そんな俺の腕を持って帰る権利をあげるから、ここは、どうか、穏便にすますとかどうですかねぇ」
「まだ、おしゃべりを続けるのか。その根性だけは大したものだ」
そう言いながら、ヒュヒュっと、さらに腕をきらめかせる。
もう一本の腕と両足をもっていかれて、
支えを失ったセンは、ゲチャっと、その場に倒れこむ。
「……俺、頻繁に、両手両足をなくすなぁ……しんどい、しんどい……」
などと、奥歯をかみしめながら、そうつぶやいてから、
「田中。正しい事のために闘うことは罪ではない。話し合いなど通用しない相手もいるのだ。精神を怒りのまま解放してやれ。気持ちはわかるが、もう我慢することはない。俺の好きだった自然や動物たちを、守ってやってくれ」
そう言ってから、ガクっと、
『意識をうしなった感じ』で力を抜いて、目を閉じる。
そんなセンに、
田中は、
「せやから、その信頼と期待には、まったくもって、応えられへんねんてぇ……てか、ソレ、ワシがお前に託したい想いやねんなぁ……」
と、しんどそうにつぶやく。
センは、『田中がいるので大丈夫だろう』と思っているわけだが、田中は、田中で、『センエースがいるからだろう丈夫だろう』と、どこかで思っている節があった。
『歴史(記憶)』が鎖となって、互いの精神を縛り合っているという、かなり高度なSM。
田中は、文句を言いつつも、一応、自分の中にある可能性を解放しようと努力はしていた。
しかし、何をどうすればいいのか、そもそも難しい話だったこともあり、
『本来の自分』を解放するということはできなかった。
まごまごしている間に、
ウムルが、ヒュヒュっと、また、腕だけを、ササっと、軽く動かす。
すると、当たり前みたいに、田中の両手両足が切断されて、
胴体と首と頭だけになった田中は、ボトリと地面に落ちる。
あまりにも高速の惨劇だったため、痛覚が追い付くまでにラグがあった。
コンマ数秒の遅延時間を経て、田中は、
「ぐっどぅぁああああああああああ!」
激痛に悶絶。
そんな田中を尻目に、
センは、
「もっと苦しめ! もっとだ! もっとぉ! 俺の怒りと憎しみを思い知れ! 『あの日(塾のテストで負けた日)』、俺は、もっと苦しんだんだぁあああ!」
などと、鬼の形相で叫んでいた。
激痛の中で、田中は、センのファントムトークに、
正常な訂正で返す――などということは、当然できず、
「アカン! マジで死ぬ! セン、助けてくれ!」
「お前が俺をボスケテぇええ!」
互いが互いに救いを求めあう。
その様を見下ろしながら、ウムルが、ボソっと、
「信じられないな。そんな状況で、しかし、ずいぶんと、まだ、余裕がある様子」
そんな彼の発言に、センが、
「余裕なんかあるわけねぇだろ……必死に意地を通しているだけだ! これだけの意地を通せる生命体はそうそういないぞ! どうだ! 俺を部下にしてみないか! これほどの意地を通せるヤツは、何かしらに、きっと使える! というわけで、回復して、武器を与えてみないか?」




