45話 金のヴェール。
45話 金のヴェール。
ロイガーの消し炭が、サァアっと溶けだして、地面に、ジオメトリを描き始めた。
それを見たセンは、心底渋い顔で、
「うそぉん……」
と、ほんとうに、心からダルそうな顔で、そうつぶやいている彼の横で、
田中が、
「ちょっと待ってや……ぇ、マジで……うそやろ……まだ、おかわりくる感じ? もうええて……」
と、センと同じ、しんどそうな顔でつぶやく。
ウザダルそうな顔をしている二人の視線の先で、
地面に刻まれたジオメトリがパァアっと淡く輝きはじめる。
そして、そのジオメトリから、
ヴェールを纏った人型のバケモノが現れる。
その化け物の顔を見た瞬間、
センは、両手で頭を抱えて、
「ウムルだぁああああああああああああああああああああああああああああああああ! 終わったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ! お疲れ様でしたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
豪快に絶望を叫んだセンの横で、
田中も、奥歯をかみしめている顔で、
「ぐっ……ウムル=ラト……GOOの中でも、最上位級……これは……ほんま、あかんな」
センの中で、センの記憶を見ている田中は、
ウムルのヤバさも、当然理解できている。
センと田中、
両者とも、『完全な状態』であれば、
ウムルなど、『鼻息で消し飛ばせるゴミ』だが、
今の、奪われ散らかした状態の二人にとって、
ウムルは、あまりにも遠い相手。
そのウムルは、
センと田中、
二人に対し、平等に視線を向けてから、
「……私のことをご存じとは……どうやら、ただのガキではない様子……まあ、ロイガーを殺してみせたのだから、当然、ただのガキではないわけだが」
そう言いつつ、ウムルは、スっと、一歩前に出る。
その一歩に対し、ビクっと体をこわばらせるセンと田中。
反射的に、ガチファイティングポーズをとってみるものの、
『今の自分たちに、ウムルをどうにかできるわけがない』、
という当たり前の認識は、当然のようにもっているわけで、
だから、センは、
「田中。今こそ、覚醒の時だ。おそらく、お前の中には、ソンキーが眠っている。たたき起こして、あいつを殺せ」
「おどれが覚醒してくれや。究極超神の序列一位様よぉ。ソンキーより、おどれの方が強いんやろうが。世界一の神様らしく、あの程度のザコ、秒で屠ってくれや」
「俺の『神界の深層を統べる暴君』とか『究極超神の序列一位』って称号は、いわゆる、『やる気がないクラスの学級委員長』みたいなもので、押し付けられただけの、みっともないハリボテに過ぎない。実際のところは、お前にもソンキーにも負け続けている。いつだって、俺はルーザーで、お前らがウィナー。田中にはテストで、ソンキーには武で、ずっと、ずっと、ちゃんと負けてきた。というわけで、お前の方が正式な一等賞だ。だから、お前が、覚醒して、ウムルを倒すべきなんだぁああ!」
「都合の悪い時だけ、主役の座を押し付けてくんな。ワシよりも、お前の方が主役としての適性が高い。というわけで、覚醒せぇ! 今まで、散々、ピンチで覚醒してきたやろ! 同じことするだけや! 簡単な話やろ!」
「いや、一位はお前――」
「いやいや、おどれこそ、真の頂点――」
「頑張れ、田中、お前がナンバーワンだ――」
「それは、正式な二番手であるワシにこそふさわしいセリフで――」
などと、醜く、『ナンバーワン(キングボ〇ビー)』の座を譲り合っている謙虚な二人。
もうダメぽ。
おしまいぽ。




