42話 叡智の結晶。
42話 叡智の結晶。
むしろ、あまりに堂々としているので、神話生物対策委員会は、そのログに対し、『田中に罪をなすりつけようとしているのが見え見え』――という、うがった結論を出してしまった。
『さらって拷問して吐かせる』という案も出たには出たのだが、変に賢い連中の集まりだったがゆえに、『無駄な労力を割いた無能』として扱われることを恐れ、誰も実行の責任者になることができなかった。
田中シャインピースが、ノリと自虐だけで、『自分は300人委員会の代表』を名乗っていたことも、神話生物対策委員会の捜査をかく乱する一手になっていた。
『本物だったら、そんなこと吹聴するわけがない』という疑心暗鬼。
すべてが、変にかみ合って、田中シャインピースへの疑いは完全に晴れた。
推理小説における『明らかに犯人っぽいやつは犯人ではない』の理論が適用されたのである。
結果、当然だが、どれだけ探ってみても、『妄想上のT』に辿り着くことができない。
そして、その間にも、Tに関するウワサは、どんどん加速していく。
T300人委員会のメンツは、Tを取り戻そうとさらに暗躍。
有能な面々が、それぞれの力をフルで発揮すれば、当然、それなりの結果がでる。
そして、カルトの功績は、すべて、教祖がもっていく。
教祖がそうしようとしなくとも、信者は、すべての功績を教祖にささげる。
いくつかのとんでもない功績の全てが、『Tの指示と教導によってなされた』という噂が裏社会の中で広がっていく。
実際のところ、Tは、なんの指示も出していないが、しかし『Tの功績ということにしておけば、Tにゴマをすれるだろう』と考えたメンバーが大勢いたことで、Tは、『凡夫では影すら見えない死角から無数の鬼謀の打つ怪物』――という、エグい妄想ばかりが雪だるま式に広がっていく。
そんな『膨大に膨れ上がった噂だけ』を聞いた神話生物対策委員会は、次第に、Tのことを、
『携帯ドラゴンなどのオーパーツを、地球に送り込んだ元締めかもしれない』
――と考えるようになる。
その推測は、出来の悪い伝言ゲームばりに歪んで波及していった。
「もしかしたら、Tは、地球を救うために、大量のオーパーツを地球に落としてくれた存在かも」
↓
「あるいは、Tは、違う銀河からきた叡智のバケモノで、地球を救うために、大量のオーパーツを与えてくれた大いなる存在かも」
↓
「たぶん、Tは、違う銀河からきた叡智のバケモノで、地球を救うために、大量のオーパーツを与えてくれた大いなる存在だろう」
↓
「どうやら、Tは、イス人という、違う銀河からきた叡智のバケモノで、地球を救うために、大量のオーパーツを与えてくれた存在らしい」
↓
「なんでも、Tは、イス人という、違う銀河からきた叡智のバケモノで、なおかつ、イス人の中でも最高位の英知を誇るスーパーイス人であり、地球を救うために、大量のオーパーツを与えてくれた存在だということだ」
↓
「T、エグいてぇえええ! 心から崇拝いたしますぅうう!」
という流れを経て、『T・300人委員会』の末席に加わった『神話生物対策委員会』は、『現・神話生物研究会』に対し、
『我らの真のボスであるTはヤバいぞ。流石に、逆らうな』
と、命令を出した。
ようするには、落ち目になった組織が、勢いのある組織にくわれたのである。
――カンツは、別に頭が悪いわけでも、情報に疎いわけでもない。
だから、独自に集めた『Tの情報』に対し、
『ああ、なるほど。こいつは、確かに、そこそこヤバそうだな』
という結論にいたる。




