38話 支配者Tは神の夢を見ない。
38話 支配者Tは神の夢を見ない。
肥大化しすぎた人間の脳内には『神を感じ取る領域』が存在するという。
脳は、『異次元の刺激』に対して過敏になるように進化してきた。カルトにハマるのは、特別なことではない。何かに依存してしまうのは、人のサガである。
――そういった、人間の本質の部分を、支配者Tは、『激しく刺激してしまった』のである。
そんな目論見はなかったし、そんなことになると想像もしていなかった。
支配者Tは、神の夢を見ない。
神を必要とする人生ではなかったから。
だから、推測に届かなかった。
『想像力』が封じられていた――というのも大きな原因の一つやもしれない。
ようするに、愚かだった。
激しく、マヌケだったのである。
妄想力の欠如。
――特に何の力も持っていなくとも、それらしい組織を作り『教祖』を名乗れば、信者が集まってきて、勝手に想像力を発揮してくれる、というのがカルトの本質。
人は弱いから、ハリボテの強さと、それっぽい正しさに惹かれてしまう。
『本物の強さ』や『信念の在る正しさ』は、弱い人からすれば、眩しすぎて、逆に敬遠してしまったりもして。
本物ではない虚構こそを、人は求めてしまったりもする。
そういった、『人の弱さ』を軸に、300人委員会を見てみると、まさに、『そういう意味』での『理想』と言えた。
『落雷』というのは、絶妙にスピリチュアルで、かつ、動物の本能に、正しく畏怖するべき対象として刻み込まれている。
『カルト的な求心力』という点だけでみれば、『人を殺すノート』よりも、はるかに上だろう。
『純粋な恐怖』だけでは届かない、『潜在的な畏怖』の高み。
ガチで『カミナリ』を操ることができる『影の支配者T』の求心力はえげつなかった。
『先の見えない暗闇状態のような時代が後押ししてくれた』という背景もある。
戦争、疫病、天災、
激動の暗黒時代を生きる者たちにとって、『希望』は何よりも甘い蜜。
『絶対的な支配者Tの300人委員会』は、最初こそ、ただの『安い宗教』に過ぎなかった。
しかし、しだいに、この世で最も強烈なカルト宗教へと進化していく。
そして、その『激烈な流れ』すらも、途中で変わる。
『正式に所属しているメンバー』の顔ぶれが、本格的な豪華絢爛になっていったことで、様子が変わってくる。
気づいた時には、各国の首脳すらも、『T・300人委員会』に正式加入することになった。
ここまでくると、もはや、カルト宗教ではない。
文字通りの、『影の世界政府』である。
『失態や反逆』に対しては、『神のイカズチ』が降り注ぐ。
『お天道様が見ている』という概念を世界単位で実体化させたT。
もし、Tが『救世の意志』を持つ賢者だったなら、おそらく、そのまま、世界は統一されていただろう。
だが、Tは、途中で日和った。
『あ、なんかちょとやばくなってきたかも……ここまでくると、ダルいな……』
と、普通に狼狽することになった。
結果、Tは、
『ちょっと、いったん、放置しよう。放っておけば、忘れてくれるだろう』という精神のもと、一か月ほど、300人委員会をシカトした。
それが最大の最悪手だった。
放置されたメンバーは、
『Tに見捨てられないため』に、奉仕の量を増やすことになる。




