37話 悪魔を黙らせるという快楽と愉悦。
37話 悪魔を黙らせるという快楽と愉悦。
『おてんとうさまは見ている』――『常に、監視の目がある』という認識の下で生きていると、人は、万引き一つすら出来なくなる。
人は、誰でも、心の中に、揺れ動く感情を飼っている。
いわゆる『天使と悪』のささやき。
だが、状況が整っていれば、悪魔は、けっこう簡単に黙り込む。
そして、『悪魔を黙殺できる状況』というのは、無駄に考えなくていいし、変なリスクとも決別できるので、案外、楽なものである――と、政治家Cは、この世に点在する『真理の一つ』を理解する。
真理を得た政治家Cは、Tのコマとして、『本来の有能さ』を発揮していく。
状況や環境しだいで、人は、『腐ったゴミ』にも『有能な歯車』にもなりうる。
――『地位のある者』ほど、『強大な力』に恐怖するもの。
王の天敵は奴隷だけじゃない。
『自然現象には勝てない』と理解できるだけの頭があり、『失いたくないモノがある者』にとって、『いつでも、頭上に降り注ぐ可能性がある雷』は、最大級の恐怖。
逆らうことなど、当然できないし、逆らいたいとも思わなかった。
むしろ『それだけの力を持つ者の庇護下に入ることが出来る』という愉悦に歓喜した。
起業家Yのビルに落雷が落ちて以降、政治家Cのコミュニティの中にいる『それなりに地位のある資産家や政治家』連中が、こぞって、300人委員会の末席に加わりたいと願い出す。
表では、もちろん、ただの落雷事故として処理されたが、裏の世界では、それが『人為的な天罰である』というウワサが広まっていた。
裏世界の情報網は、表世界よりもよっぽど『信頼』と『信用』を重視している。
ふざけたホラを吹聴した者は不穏分子として消されるから、テキトーなシャレは通じない。
そんな裏の世界で広まっていく『300人委員会が本格的に動き始めた』というウワサ。
政治家や起業家たちの人脈は大きい。
大物たちの妄想の中で、300人委員会が暗躍していく。
影しかなかった300人委員会が、分厚い質量を獲得していく。
実験は、第2フェーズへ移行する。
★
――『支配者T』的には、すべて、1から10まで、ちょっとした実験のつもりでしかなかった。
自分の中にある『300人委員会』という虚像を、どれだけ、世界に信じ込ませることが出来るのか。
そういう『お遊び』でしかなかった。
『300人委員会を育て上げて、何かを成そう』などとは一切考えていなかった。
ちょっとした出来心で、『300人委員会のこれまでの歴史の年表』なんかを作ったりして、『歴史から得た学び』を説いてみたりして。
昔から、ウワサだけは事欠かない組織である300人委員会。
その噂の尾ひれに、『それらしい訂正』をつけたすことで、『リアリティ』を追及してみたりもした。
――そうやって、田中は、300人委員会実験を進めていった。
数か月前に始めたその実験は、結論で言えば大成功。
心情的には大失敗。
肥大化しすぎた人間の脳内には『神を感じ取る領域』が存在するという。
脳は、『異次元の刺激』に対して過敏になるように進化してきた。
カルトにハマるのは、特別なことではない。
何かに依存してしまうのは、人のサガである。
――そういった、人間の本質の部分を、支配者Tは、『激しく刺激してしまった』のである。




