36話 膨れ上がっていく、虚構の300人委員会。
36話 膨れ上がっていく、虚構の300人委員会。
性根はキッチリと腐っているものの、普通に勉強家だった政治家Cは、当然、300人委員会という『陰謀論』ぐらいは知っていた。
『そんなもの存在しない』と思っていたが、しかし、実際に、カミナリを落とされたことで、少なくとも、この手紙の送り主が、ただのイタズラ野郎ではないと理解した。
『単なる偶然』の可能性も捨てきれなかったが、しかし、それよりも、『すべてが事実である可能性』に賭けた。
そして、彼は、賭けに勝った。
しょっぱい汚職を繰り返すよりも、300人委員会の古参メンバーになる方が、よっぽど旨味としては大きい。
――『自分は選ばれたのだ』と思った政治家Cは、それまでに構築していた『裏のコミュニティ』で、『自分が300人委員会の一人である』と吹聴していく。
そんな戯言、普通は、もちろん信じない。
『近所のオッサン』の口から飛び出した言葉だったなら、当然、誰も信じなかっただろうが、しかし、『ちゃんとした地位のある大物』が、高級料亭で、雰囲気たっぷりに、もったいぶりながら、それを口にすれば、『ただのヨタ話』だと思う者の方が少なくなる。
もちろん、信じない者もいる。
人間の考え方は千差万別。
ただ、話が話なだけに、信じない者を、『ああそうですか、信じてもらえなくて残念です、それでは』と放置することも出来ない。
『事実は事実として受け入れてもらわなければいけない。大いなる情報を得た者には、大いなる責任が伴う』と、元汚職議員の分際で、しかし、なかなかまともな『正常な思考』を経た政治家Cは、Tに連絡を入れて、
『起業家Yが所有しているビルに落雷を落としていただきたい。その理由は~~であり、また、~~という理由もあります。起業家Yは~であり、引き入れることは、300人委員会にとって利益になる。逆に、起業家Yを放置することは、~~の観点から、~~であり、ゆえに、300人委員会にとって不利益を被る』
などと、おそろしいほど長々としたメールを、Tのアドレスに送信。
『理由が、それなりにちゃんとしていた』ということもあり、
Tは、そのお願いを聞いてあげた。
Tにとっては、スイッチを一回押すだけの簡単なお仕事。
死者や負傷者を出すことは目的ではなかったので、
普通に、誰もいなくなった夜中を狙い、落雷を落とした。
――翌日の昼前に、起業家Yは、政治家Cに土下座で許しを請うた。
あなたの話を信じなくて申し訳ありませんでした、と誠心誠意謝罪をし、
そして、自分も300人委員会に加えてほしいと懇願した。
その際、起業家Yは、なかなかの金額に及ぶ『袖の下』を用意していたが、
政治家Cが、それをうけとることはなかった。
『おてんとうさまは見ている』――『常に、監視の目がある』という認識の下で生きていると、人は、万引き一つすら出来なくなる。
人は、誰でも、心の中に、揺れ動く感情を飼っている。
いわゆる『天使と悪』のささやき。
だが、状況が整っていれば、悪魔は、けっこう簡単に黙り込む。




