34話 最初はただのネタだった。
34話 最初はただのネタだった。
(お前は、切り札を切るタイミングだけに集中しろ。俺の意識単騎で、あいつの足止めをする!)
(できんの?)
(もう、すでに、結構な回数、繰り返しているからな。さすがに、ロイガーのパターンは理解できた。俺は、初期能力ゴミだが、しかし、『反復練習したことなら、人並み以上に出来ることもままある系男子』なんだよ)
そこで、脳内会議はいったん終了し、
センの意識は、回避タンクに徹する。
とりあえず、いったん、意識から『攻撃の選択肢』を外し、
ロイガーのヘイトを上手にコントロールしていきつつ、
『攻撃したいのはやまやまなんですけどねぇ』という雰囲気は出しつつも、
その実、回避にのみ専念している。
「ぐぎゃぎゃおぉおお!」
半リミッター解除中のロイガーの動きを予想するのはたやすい。
どこぞの狩りゲーのモンスターとは違い、ロイガーの場合、
怒り状態になったことで、動きが、より単調に仕上がった。
パターンの数が減少し、予備動作が膨らんでいる。
この状態なら、セン単騎でも回避は余裕。
あっさりと、特に問題もなく1分を稼ぎきったところで、
センピースは、アイテムボックスから『スイッチ状のアイテム』を取り出す。
(ウワサによると、こいつは、なかなかレアらしいから、たぶん、殺せるやろう……まあ、効かん可能性もなくはないけど……まあ、とりあえず、ためしてみようか)
そうつぶやきながら、
田中は、意識の上で、座標をロイガーに合わせると、
(頼むから、死んでくれ)
願いながら、スイッチを押す。
すると、
天が、一瞬だけピカっと光って、
落雷の剣が、ロイガーを串刺しにした。
と、認識できたコンマ数秒後、
ガラガラガラガラガッシャァアアンッ!
という、轟音が鳴り響く。
文字通りの、音を置き去りにした一撃。
回避不可能な、天の一手。
正式名称不明、
『落雷スイッチ』と田中が勝手に呼んでいるそのアイテムは、
だいぶ前に、学校で拾った超レアアイテム。
田中を、300人委員会の頂点にまで押し上げた秘宝。
★
――最初はただのネタだった。
昔から噂のあった『300人委員会』という陰謀論を、『本当に存在する組織だと思わせることは可能か』という、ちょっとした、お遊びの実験でしかなかった。
※ この辺のアレコレに関して、実のところ、『田中』の『願望』によって世界がチューニングされているのだが、その部分に関しては、当事者が知る由もないこと。
カミノは世界を創る時、ディティールにこだわる。創世の信条は『細部に神はやどる』。『リアリティ』という概念に強いこだわりを持っているのがカミノという原初の調停者。
――300人委員会が実在するのか否か、それを正しく知る者は少なかったが、とにかく、ウワサだけは昔からあって、そして『その噂の認知度』は、それなりに高かった。
そんな現状を面白いと思った田中は、300人委員会という幻影を、『本当に存在するもの』として形にしてみたいと考えた。
『どうしても叶えたかった夢』というわけではない。
『スマホゲーのガチャで、SSRのキャラをゲットしたい』ぐらいの、ちょっとした願望でしかなかった。




