6話 兄さん、あとはよろしく。
6話 兄さん、あとはよろしく。
「兄さん、二つに一つだ。俺を敵にまわすか、それとも、味方にしておくか。――俺に『貸し』をつくれるのはデカいよぉ」
声音だけはおだやかだが、
その瞳に刻まれた魂の色は、鋼のような狂気だった。
(ほ、本能が警告している……こいつはヤバい……っ……こいつは、レベル1じゃない。ゴミの皮をかぶった、とんでもない化け物……っ!!)
心の理解に、体が反応する。
反射的に、へっぴり腰になり、
体を震わせながら、
「……わ、わかった……要求をのむ……だ、だから、その目で、ぼくを見るな……やめろ……たのむから」
「はいよ、兄さん」
そこで、センは、眼力に込めた色を薄めて、
ニコリと微笑み、
「ん? どうしたのかな、兄さん。すごい脂汗だけど。なにかいいことでもあったのかい?」
と、紳士的に煽っていくセン。
「……お前は…………き、君は……いったい、どうなっているんだ? ……いったい、何をしたら、そんな……奇妙なことになる?」
「普通の人より、ちょっとだけ頑張ったんだよ。そんだけ」
「……」
「兄さん、カティ姉さんの件、ほんと、よろしくね。もし、上層部の説得に失敗したら、俺があんたを殺すよ。というか……フェイトファミリーをぶっ潰すよ」
「……っ」
「俺は、俺を全力で殺そうとした両親が嫌いなだけで、フェイトファミリー自体には、そこまで嫌悪感をもっていない。ゴミ扱いはされていたけど……ま、実際、俺はレベル1のゴミだしね」
センは『自分の状況』と、『ファミリーの事情』を切り離してモノを考えている。
この辺の『視点』みたいなものは、暗部の人間として生まれ、暗部の人間として生きてきたがゆえに育まれてきたシード。
「だから、余計なことをしないのであれば、これまでの俺に対する非礼・無礼・失礼の数々は見逃しておいてあげるよ。ただ、今後、一度でも、俺に対してナメくさったマネをしてくれた場合、全力で叩き潰すから、そのつもりで」
「……」
「じゃあ、兄さん、マジでよろしくね」
そう言ってから、センは、シャブルンに背を向けると、
カティに向けて、
「じゃあ、行こうか、カティ姉さん。まずは、冒険者組合にいって、正式に登録しよう。で、さっそく、依頼をこなして、ちゃちゃっと階級をあげちゃおう。姉さんは、今日から、『史上最高の英雄』として名をはせる。そして、俺は、そんな姉さんのサポート役として、おこぼれを頂戴するんだ。んー、最高だねっ」
★
――ここは冒険者ギルド。
殺伐としている裏ギルドと違って、
雰囲気は華やかで、受付嬢も美人さん。
サクっと登録を済ませた二人に、
受付の美人さんが、いぶかしげな目で、
ソっと、小声で、
「あなたたち……もしかして、フェイトファミリー?」
その問いかけに、センも、小声で、
「俺はカルマ家の秘密兵器、センエース。こっちは、デステニィ家の天才美少女、カティ。二人合わせて、新人冒険者チーム『ガットネロ』。今後とも、末永くよろしくです、ちーっす」




