31話 100万回死んだティガレ〇クス。
31話 100万回死んだティガレ〇クス。
命を刈り取る経験値とは違う、もう一つの経験値とは、
死に際でみた絶望が、そのまま、器になるタイプのもの。
簡単に言えば、『とてつもなく激しい戦闘』あるいは『エゲつない絶望』の中で折れずにあがいた者の魂にだけ宿るボーナスポイント。
このボーナス経験値は、非常に強力ではあるが、しかし、取得条件が非常に厳しい。
コスモゾーンに『極限状態で、あがき、苦しみ、もがいた』と認められないと獲得できないのだが、コスモゾーンの判定基準がイカれすぎていて、普通の者では、なかなか、ポイントを獲得できない。
――『こんなこと』はほとんどありえないので、例としては不適切だとは思うのだが、
『一般人以下の運動神経しか持たない童貞の陰キャが、グレートオールドワンを相手に、マジの命がけで挑み、手足を切り刻まれも、折れずに、牙だけで立ち向かい続ける』
ぐらいのことをしてみせないと、
コスモゾーンは、『極限状態であがいた』とはみなさない。
だから、普通に生きていて、このボーナス経験値を得ることはない。
こんな、ふざけた基準が用いられている経験値を獲得できる者など、いるわけがない。
「一閃」
センピースの一閃が、ロイガーの全身に食い込んでいく。
存在値の数値差を考えれば、通るわけがない一撃。
しかし、食い込む。
グイグイと、押し込まれていく。
「ぐぬぁああああああああああああああああっ!」
痛みではなく、イラつきから、
ロイガーは咆哮を上げた。
センピースの一閃など、『わずかでもダメージが通っているだけで奇跡』というレベルで、大ダメージなど夢のまた夢。
ほとんどダメージになどなっていない――そんなことは理解した上で、ロイガーは、しかし、
「ふざけるなぁああ! 貴様ごときの攻撃に! なぜ、痛みを感じなければいけない!」
グチャグチャにされたプライド。
その権威を取り戻そうと、ロイガーは、必死になって、
センピースを殺そうと暴れ回るが、
しかし、そのどれもが通らない。
最初の方は、ロイガーの攻撃が、カスりかけていたりもしたのだが、
しかし、慣れてきた『田中』の前では、もはや、ロイガーのムーブは、
遅すぎて、アクビが出る領域にまで至っていた。
田中の意識の中では、ロイガーのすべてが見えていた。
かつて、『ボールが止まって見える』と言ったスラッガーがいたが、
その極致が、今の田中には、理解できたような気がした。
田中の視点で言えば、ロイガーの攻撃は、どれもが直線的だった。
攻撃だけではなく、回避も全て単一。
まるで、アクションゲームで、攻撃も回避も、すべて、同じモーションを使いまわしているみたい。
だから読めてしまう。
予備動作の段階から全て同じだから、ジャスト回避もカウンターも余裕。
今の田中にとって、ロイガーなど、100万回戦ったティガレ〇クスみたいなもの。
一撃を受ければ、もちろん死んでしまうが、しかし、もはや、攻撃を受けることはありえない。
こうなってしまえば、負ける方が難しいレベル。
「よけるなぁああああ!!」
イライラがさらに加速していく。
そうなってくると、よけいに、動きが単調になってくる。




