29話 覚醒の兆し。
29話 覚醒の兆し。
(おどれのトーク術、まったくもって通じてないやないか)
(くそぉ……天螺の残数を60枚ではなく、70枚というべきだったか……紙一重だった……俺のファントムトークが、もう一段階上の領域に届いていれば、今頃、ロイガーは爆散していたのに……ちくしょう……)
(枚数関係ないっ! あと、トークで敵は爆散せぇへん! マジで、そろそろ、ええかげんにせぇよ、クソボケカスゴラァ)
などと、心の中で、カスみたいな反省会をしているセンピースに、
ロイガーは、
「また何かしらの『鬱陶しいミラクル』でもおこされたら、かなわんからな……もう、遊ばずに、このまま殺させてもらうぞ」
そう宣言してから、
ダッっと、足に力を込めた。
豪速で距離をつめると、
そのまま、右手にオーラを込めて、
「死ね、虫ケラぁ」
センピースの顔面を爆砕しようとした。
アイアンクローからの爆裂魔法――その殺意満点のムーブに対して、
センピースは、
「どぴぁっ!」
ギリギリのところで回避した。
ロイガーのアイアンクローが顔面に届く直前で、ギュルンと体をひねって回避。
「っ?!」
かなりキモい動きだったが、なかなか俊敏。
「なぜ、急に、反応速度が上がった?」
当然の疑問を浮かべるロイガーに、
センピースは、
「こ、これが、俺の基本スペックなんだよ!」
と、返しているが、しかし、
当然、基本スペックどうこうの話ではない。
(おい、田中、なんで、俺ら、今の攻撃を回避できたんだ? 現状、できるわけがない運動神経なんだが?)
そんなセンの問いかけに対し、
田中は、少しトリップしたような声音で、
(…………パターンがあった)
ボソっと、そうつぶやいた。
その発言に対し、センは渋い顔で、
(あん? 省略して喋んな。俺はバカなんだ。主語と述語をシッカリ整えた上で、文豪級の例えを駆使してくれないと、内容がさっぱり理解できない!)
(ロイガーの動きのパターン……たぶん、5種類ぐらいしかない……ファミコンのラスボスぐらい単調なルーティン……)
(…………動きなんて、ほとんど見てねぇだろ……あいつ、ナメプしまくって、俺の攻撃を黙って受けていただけだし……)
(予備動作のパターンが少ないんや。角度や大きさ変えとるだけで、実は同じテクスチャー。あれなら読める。次にあいつがとる選択肢と、その未来)
(……なんで、急に、天才性が復活してんの? 無能化してたんじゃないの?)
(……セン……お前と合体し、お前の記憶に触れたことで、色々なことが理解できた……)
合体したことで、『記憶の一部』が意識の中で統合される。
途方もない時間を重ねてきたセンエースの『記憶』は膨大で、その全てを、短時間で網羅することなど、普通であれば、できるわけがない。
『合体により田中の意識に流れてきたセンエースの記憶』は、たとえるなら、とんでもなく文字量の多い超長編小説みたいなもの。
その全てを、こんな短時間で読破し、かつ、読み込むことなど出来るわけがない。
できるわけがないのだが、
しかし、田中の『潜在意識』は、それを秒でやってのけた。
普段は眠っている『使っていない脳領域』が稼働しはじめる。




