19話 止まらない、ぐぅがげっげん。
19話 止まらない、ぐぅがげっげん。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
自分のちょっとした弱さに付き合ってやるほどヒマじゃない。
手前の苦悩や激痛など関係ない。どうでもいい、そんなもの。
――今、この鉄火場で、センエースにとって必要なものは、ただ一つ。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!!」
研ぎ澄ましていくことだけ。
センは、没頭する。
この極限状態の中で、自分の肉体を知ろうと熱中する。
どう動かせば最善になりえるのか。
最適解を求めて、死に物狂いで、補助線を求め続ける。
ぶっ壊れている。
確実に。
生命体として重要な『どこか』や『何か』が、
完全にお亡くなりになっていることが、
この一連の言動だけで、誰でもご理解できるだろう。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!!」
繰り返す。
ただただ愚かに。
無様に。
みっともなく。
そんなことを繰り返しても、何の意味もない、
と、普通の人間なら、園児でも理解できること。
だが、センは、頑なに、理解することを拒む。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!!」
それでも、続ける。
折れることなく、目をバキバキにさせたまま、
『本物のアホ』が3度見するほどの異常性を、
とにかく、全力で、延々に発揮し続ける。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!!」
そんなことを繰り返していると、
ついには、
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!!!!」
「……むっ」
ダメージ量が、明確に上がってきた。
まだまだ一桁台。
8ダメージぐらい。
『ケタを数えるのすらしんどいほどの莫大すぎるHP』を誇るロイガーからすれば、一桁ダメージなど、蚊にたかられた程度のものでしかない。
ダメージと言えるレベルではない。
ただ、
『こんな、ほんの短い時間で、ダメージ量を10倍以上に膨らましてみせた』
という、その一点に焦点をあてて、ロイガーは、
「なかなかおもしろい成長を魅せるじゃないか。もちろん、『無駄なあがき』という領域からは永遠に抜け出せないわけだが……」
などと、ロイガーが呑気におしゃべりをしている間も、
センは、
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
探し続ける。
自分の中の最上を模索し続ける。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し続けた結果、
……次第に、肉体と魂が連携を開始し始めた。
諦めずにあがき続けた結果、
『自分の中に在る器』が『象』をなしはじめる。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
より深く、もっと深く、限界を超えてスパークする。
シナプスが躍動する。
髄鞘がなめらかになっていく。
パルスがどんどん高速化されていく。
もっと速く、もっと遠く、もっと高く!
止まり方を忘れる。
『止まったら死んでしまう魚』みたいに、
ただ前へ、もっと前へ。
「ぐぅがげっげん(龍牙一閃)!!」
ビキッ!
ついに、たどり着いた修羅の華。
1000億年を超える、弛まぬ努力の結晶。
その全てを、完璧に奪い去ることなど、出来るはずがない。
いや、もっと言えば、
――『誰にも奪わせないため』に、それだけの、『本物』を積んできたのだ。
『与えられた力』だと、『奪われた時』に終わってしまう。
しかし、『つかみ取った力』ならば、何が起ころうと、たとえ、『理不尽に奪われた』としても、必ず、また、『つかみかえすこと』ができる。




