14話 ヌルっと、ニヘラっと。
14話 ヌルっと、ニヘラっと。
「いやぁ、俺もね……はやく、死体の山をズラっと、こしらえたいんですよ。山どころか、タワーにしたいと考えているんですよ。全人類に死と絶望を巻き散らかして、俺という悪夢で、この世に存在する恐怖という概念の全てを埋め尽くしたいと思っているんですよ。その作業を出来るだけ効率化させるにはどうしたらいいかと、悩みぬいた結果、こうして、サポートアイテムを探すに至っている、という、そういう、合理的な現状が今というアレな感じなわけですよ。わかりますよね。当然。へっへ」
ニヘラ顔で、揉み手をしながら、へりくだっていくセンに、
「サポートアイテムなど必要ない。その剣があれば、何の問題もない」
「それは、俺を過大評価しすぎている! あんたは俺を何もわかっていない! 俺は、本当に才能がないんだ! 全人類を死滅させるというハードなミッションをこなすためには、相応のサポートがないと無理だ! そりゃあ、そこらの『平均的なスペックを誇る一般人』であれば、この強大な剣一つだけでも、すべての命を狩り取ることが可能なのかもしれない! しかし、ここにいるのは俺だ! あの、才能がないことでおなじみのセンエースさんだぞ! パワー、スピード、技、頭脳、精神力、全方位における偏差値で50を切っているという、パーフェクトな劣等種であるセンエースさんが、これほどのミッションを確実にこなそうと思うと、それなりの下準備というものが必須であり、それは、つまり、しかして――」
と、この期におよんで、まだまだ貪欲に時間を稼ごうとしているセンに、
ロイガーは、
「遊んでやる気は多少あるが、しかし、利用されてやる気は毛頭ない」
そう言いながら、
センの肩を、
ズガンと、指銃で撃ちぬく。
「ぶげぇへぇええっ!」
衝撃と激痛のあまり、つい、情けない悲鳴をあげてしまうセン。
「これは、最後の命令だ。全人類を殺してこい。それとも、代わりに貴様が死ぬか?」
その問いに対して、
センは、激痛の中で、
冷静に、冷酷に、決断をくだす。
「ぐっ……も、もちろん、全人類を殺す方を選ばせていただきやすとも……へっへ」
そう言いながら、
殺気を自分の中に押し込めて、
熟成させて、ヒリつかせて、
「俺にとって大事なのは俺の命だけだ。比較的大事な方だった母親はすでに死んでいるし、父親のことはどうでもいい。仲間も友達も恋人も存在しないし、世界に優しくしてもらった記憶もない。こんな世界、どうだっていい。全人類が死滅したところで、俺は何も困らない。俺が死んだら、すげぇ困るけど」
と、自分の中にある前提を口にしてから、
「だから、あんたの命令に従ってやる。今すぐ、全人類を殺してくるから、俺の命だけは、どうか助けてくれ」
そう言ってから、
センはロイガーの横を抜けて、全人類を殺しに向かう――
という空気感を全力で演出する。
疑われないように、
決して、自分の殺気がバレないように、
慎重に、丁寧に、
自分の心を律しながら、
一歩一歩に魂を込める。
自分のクズさ加減に拍車をかける表情。
ロイガーにビビり散らかしている精神的弱者の歩幅。
全てを、徹底的にプロデュースして、その演出を徹底する気概。
そして、
そんな、無様な自分を通したまま、
ロイガーの横をすりぬけようとした、
その一瞬に、センは全てを賭けた。




