4話 『アレ』。
4話 『アレ』。
限界を求めて頭脳をフル回転させるが、
(あかん……なんも思いつかん……普通に詰んどる……)
特に賢いわけでもない凡人田中では、何も思いつくことはできない。
(……『アレ』が使えたら、たぶん、一撃なんやけど……まだ24時間経ってへんねんなぁ……くそがぁ……どうしたもんかなぁ……)
そうこうしている間に、
ムーンビーストが、槍を振り上げながら襲い掛かってくる。
その動きは、俊敏ではあるものの、『目で追えない』というほどではない。
真正面から対峙していれば、どうにか、避けることは不可能じゃなかった。
「ぐっ……ひっ!」
必死になってよけ続ける田中。
最初の数発ぐらいは、どうにか避けられるが、
「ずぁあああああっ!」
フェイトでバランスを崩されたところに、最小限の動きからくる高速の突き。
もともとダメージを負っていた肩にガッツリと追撃をもらって、激痛が加速する。
「ほら、もっと頑張れ。まだ、ケガをしているのは一か所だけだ。それも、肩から少し血が出ている程度のケガ。まだまだ余裕で動けるだろう。もっとあがけ。もっと苦しめ」
頭に追撃すれば、そのまま殺せるわけだが、しかし、ムーンビーストは、
『無粋な瞬殺』で田中を終わらせたりはしない。
もっと、もっと、彼の命で楽しむつもりらしい。
「……クソったれが……なんで、ワシ、こんな目にあってんねん……」
一瞬だけ、自分の運命を呪ってみるが、
しかし、そんなことに意味はないという『合理的な思考』だけは普通にあるため、
また、奥歯をかみしめ、痛みを我慢して、
(どうする……どうする……考えろ……考えろ……)
必死になって、この場をどうにかしようとあがき、悩み、苦しむ。
『何かひらめけ』と自分の脳みそに号令を出すが、しかし、まるで冬眠でもしているみたいに、ウンともスンとも答えてくれない。
そんな自分自身の現実を前に、
田中は、自嘲して、
「……まあ、そうやわな……ワシ、ただの一般人やし……」
自分自身が何者でもないことを強く再認識してから、
田中は、ムーンビーストをにらみつけて、
「それでも、あがいたる……一般人ナメんな……」
極限状態だが、しかし、それでも、目に光が宿る。
もはや、それだけでも、一般人を名乗ってはいけないレベルの眼光。
田中は、
「だぁりゃぁああ」
気合いを叫びながら突撃。
賢い手段は思いつかないので、
とりあえず、出来ることを実行。
『ただ殴るだけではダメだ』というのなら、『急所を探してやる』という、最低限の知性を発揮。
頭のでっぱりの部分や、関節部分、側頭部や、胸部など、色々な箇所に、『人生を込めた拳』を叩き込むが、どこも、ブヨンブヨンするだけで、一ミリたりともダメージが通っている様子はない。
さすがに、目を狙えば多少なんとかなるかと思い、指で突いてみたりしたが、しかし、眼球もグニポヨンッと、繊細な弾力性を発揮するだけで、ダメージには至らなかった。
「はぁ……はぁ……」
20回ほど殴ったところで、田中は、普通にフラつく。
全力で20回ほど拳を振り回す――プロのボクサーなら、その程度で息を切らしたりしないが、しかし、一般人なら、余裕で酸素吸引が必要になる運動量。




