1話 クトゥルフ系統の作品では、いつだって、便利に扱われるムーンビーストさん。
1話 クトゥルフ系統の作品では、いつだって、便利に扱われるムーンビーストさん。
「もらえるといいなぁ、と夢見ながら、カンツたちの完全勝利を願って毎日眠るだけの日々を過ごしたい……」
などと、センが願望を口にした、
その時、
「ん?」
田中の足元に、ジオメトリが出現した。
と、思った直後、
「ちょっ、え――」
視界がグルンとまわった。
グニャっと意識がつぶれた感じ。
しかし、それは一瞬のことで、すぐに意識も視界も元に戻る。
――転移した田中は、ババッっと、周囲を見渡しながら、
「な、なんや? 何やねん」
と、軽くテンパりつつも、しかし、
ここまでの段階で、『異常現象』は何度か体験しているため、
『その中の一つだろう』という認識には落ち着いている。
場所は学校のグラウンド。
他に誰もいないのに、なぜか、ナイター用の照明がグラウンドを照らしていた。
「ほんま、勘弁してくれや……」
と言いつつ、
また『化け物が現れる可能性』を考慮して、
何か武器になるものはないだろうかと、周囲に目を配る。
すると、そこで、
ギチっと『何かがひずむ音』が耳に届く。
音がした方に目を向けると、まがまがしいジオメトリがまたたいていた。
「……しんどいのう……」
と、本音をこぼしつつ、
冷や汗にまみれながら後ずさり。
そんな田中の視線の先で、
ジオメトリが、グネグネと動き、
ついには、その奥から化け物が這い出てくる。
「……ぷはぁ……はぁ、はぁ……」
長い槍をもった両生類系のばけものだった。
そこまで大きなオーラを放っているわけではないが、
しかし、少なくとも、グールよりは強そうであった。
その化け物を見ながら、田中は、心底ウザそうな顔でつぶやく。
「……仮に、相手が、『人間のガキ』やったとしても、槍をふりまわされたら対処がしんどーてしゃーないのに、ゴリゴリの化け物に槍をもたれたら、『普通の男子高校生その1』としては、もう、泡を吹いてお手上げするしか道がないなぁ……」
などと、ぶつぶつと、世界に対して文句を口にしていると、
武器をもった化け物が、ギロっと、田中を睨みつけ、
「そこのガキ……貴様、なかなか、破格の器を有しているな。しかし、そのほとんどが封じられている模様……僥倖……貴様を喰らえば……GOOに進化できるやも」
舌なめずりしながら、そんなことを口にしつつ、
殺意のこもった姿勢で槍を構え、
「私はムーンビースト。ニャルラトホテプ神に仕える美しき魔獣」
堂々と名乗りを上げてから、
ムーンビーストは、一度、槍を地面に刺して、
胸の前で、厳かに合掌すると、
「あの良質な魂魄を喰らうことで、私は一兵卒を卒業し、『深き高み』へと至るであろう。そうすれば、より、多く、深く、ニャルラトホテプ神に尽くせるだろう。ああ、素晴らしい幸運のレールを敷いてくださったこと、心より感謝を」
天に祈りをささげる。
祈りの相手は、崇拝の対象であるニャルラトホテプ。
『ムーンビーストのような奉仕種族』の上位者であるGOO。
そのさらに上位の存在であるアウターゴッド。
そんなアウターゴッドの中でも、最高位に位置する化け物。
それが、ニャルラトホテプ。
盲目に崇拝する対象としては十分な強神。




