111話 ジンテーゼの根っこ。
111話 ジンテーゼの根っこ。
「神ふくめ、誰も持ち上げられない石を……この俺が持ち上げてやる」
「……お前が持ち上げられるんやったら、『誰も持ち上げられない石』は不可能ってことで話が終わるんやけど。思考クイズにすらなってへん。ただの根性論で、一ミリも論理的やないし」
「ジンテーゼってのはそういうもんだろ」
「いや、ちゃうと思う」
「――『AかBの二つしかない道の内、どちらか一つを選ぶしかない』という究極の二択の前で、『壁をぶっ壊す』という答えを魅せつけるのがジンテーゼだ。だから、俺の意見は正しい。はい、論破ぁ! 異論は認めなぁい! ていうか、聞く気がなぁい! あああああああああ!」
両耳を両手でふさいで、かつ『あああああ』と大声を出すことで、相手の反論が耳に届かなくなる、という、子供の必殺技。
これをされると、大人は、もう、どうすることも出来ない!
ただただ、呆れて立ち尽くすばかり!
もうダメぽ!
おしまいぽ!
と、そこで、田中は、タメ息まじりに、
「……『主役はイヤや』と言いながら、神ですら持ち上げられん石を持ち上げると宣言するとか……お前は、どっちがやりたいねん。モブなんか、主役なんか」
「だから言ってんだろうが。『美少女とイチャイチャする毎日を過ごしている最強の孤高ニート』だって。主役の責務とか重圧はノーサンキューだけど、旨味だけは全力で享受していきたい! 甘い汁だけ吸いたい! 臭い物に蓋をして、好きなことだけして生きていきたい!」
「最低が止まらへんな」
「そんなことより、田中はん。マジで、何も分かんねぇの? ぶっちゃけ、今の俺、タナえもんの『突破口発見待ち』状態なんだけど。気づいてないかもしれないけど、だいぶ前から、俺、思考放棄して、脊髄反射だけでおしゃべりしてんだけど」
「お前が思考放棄して脊髄反射だけでおしゃべりしとることは、どんだけ思考放棄したおバカさんでも気づける」
「で?」
「無理やな。そもそも、情報が足らんすぎる。この状況ではなんも分かりようがない」
「手元にないジョーカーを求めても意味はねぇ。少ない手札で、それでも、最強の闘い方を探っていくんだよ、一生なぁ」
「セリフだけカッコよくても、現実は何もかわらへん」
「セリフすらカッコつけられんやつに、現実をどうこうできるわけないやろ。ナメんな」
「……ちょいちょい、無駄に、正論だけ口にしやがって……ほんまに、おどれ、鬱陶しいのう」
「というわけで、謳えよ、田中。自分は天才だと叫んで、答えを見つけろ。そのあとは、俺が、お前の答えにオールベットしてやる。俺とお前が組んだら最強だ。ただ、この関係性の重要度は、マックスの10を二人で割ったとして、俺が7で、お前が1な。その比率だけは譲れねぇ。ネ○ルと同化するときのピ○コロぐらい譲れねぇ」
「ちなみに、その計算式には、数が、2ほど足りんのやけど……その残りはどこにある?」
「そんなもん知らん。ノリと勢いだけの俺のセリフに、正確な答えを求めるな、みっともないやつだ。恥を知れ」
「みっともないんも、恥を知らないかんのも、最初から最後まで、ずっとおどれじゃい、あほんだらぁ」




