104話 何が正解?
104話 何が正解?
「あっぶなぁ……カンツ一人に負けるところだった……ほんと、あのゴリラ、なんなの? ムチャクチャすぎるんだけど」
「まあ、でも、あのゴリラが味方だって考えたら、すごく頼もしくない? ぼくらだけでも、かなりの戦力だっていうのに、切り札としてアレが控えている、って考えたら、正直、誰にも負ける気がしないよ」
「まあ、それはそうだけど……」
などと、勝利の余韻に浸っている女子チームの視線の先で、
カンツは、
「ぐぅううううううっ! 負けたぁああああああっ! このワシがいたのにぃいい! ぐぎぎぎぎぎぎぃいいいいっ!!」
と、血の涙を流しながら悔しがっていた。
ダリィもかなり悔しがっているのだが、しかし、カンツの悲痛さには届いていない。
そのあまりにも野獣過ぎる姿を見たセンは、
「……いや、だから……たかが、体育の野球で、なぜ、そこまで……」
カンツは、一通り、全力で悔しがってから、
「がははははははは!」
と、ふいに、爆音で笑い始める。
その急転直下な感情の乱高下という『イカれた様』を目の当たりにしたセンは、普通にドン引きで、
「お前の大脳辺縁系、どうなってんだよ。自律神経も情緒もバグりすぎだろ」
と、呆れ口調。
そんなセンの視線の先で、カンツは、
「ワシもまだまだだな! この程度の点差もひっくり返せんようでは話にならん! 鍛錬の量を、さらに倍プッシュする必要がありそうだ! がははははは!」
「お前に問題は何もなかったから、もう、それ以上やらなくていいと思うぞ。一般人枠の田中と佐藤が『最後に余裕で三振したから負けた』ってだけで、お前ら特待生組は、ほんと、ちゃんと別格だったよ」
そこで、センは、田中・佐藤に、さげすんだ視線を送り、
「……まったく、田中に佐藤よ、お前ら、特待生の足を引っ張るなよ。一般人組の恥さらしが。貴様らは一般人変態四天王の中でも最弱。反省しろ。偉大なるゴリラ・カンツさんに謝れ。さあ、ジャンピング土下座の時間だ。あくしろよ」
そんな、センのナメた発言を受けて、
佐藤が、呆れ顔で、
「僕らが最弱の恥さらしなら、戦力外通告を受けたあなたは?」
と、そんなカウンターをかまされたセンさんは、
堂々と、胸を張って、
「俺は、戦力外を受けたんじゃない。『卒業』しただけだ」
「……卒業って言葉は、本当に便利ですよね。アイドル業界が乱用するのもうなずけます」
★
無駄に濃かった体育の時間が終わり、
つつがなく午後の授業も終えたセンさんは、
普通に、何事もなく、自宅に帰った。
自室のベッドに寝転がり、
見慣れているはずの天上を見つめながら、
「さて……どうするのが正解かな……」
と、『これからの行動』に関して悩んでいた。
「俺がゼノリカの王として、あいつら全員の頭を張っていたのが、全部、俺の痛い夢だったなら……まあ、それはそれで、とっても楽でいいんだが……夢ではなかった場合……どうすりゃ、元の世界に戻れんのか……」
色々と思案する。
ここから先のこと。
これまでのことも含めて。
「……ここで、ダラダラと、気楽に学生生活を続けるってのは、かなり魅力的な提案だな。あのおもしれー連中と『対等の立場』……いや、俺の方が、『圧倒的に下の立場』で、学校生活をエンジョイする……理想的な流れだ。誰にもダルい邪魔をされず、自由で、なんというか、救われている気がする。独りで、静かで、豊かで……」




